154話 ヘビとドラゴン
ランディングゾーンから発進したAH-1Zは、小型レーダー装置である
ただ、到着までは数分かかる。着いた時には既に終わっている可能性もなくはない。
三沢はコクピットの液晶画面に表示されたテレビ画像とにらめっこしながら操縦を行う。 CRSの表示や窓の外に目をやるのは横田の仕事だ。
「コウ、周辺には気を配ってください。生き残ったグリフォン部隊の襲撃もありえます」
「わかっている。それに、あのドラゴンも潜在的脅威だ」
「そうですね」
三沢は横田の言葉に眉をひそめる。
まさに屈辱とも言える敗北を喫したのは1ヶ月ほど前。アメリアと瀬里奈が連れ去られた際、ドラゴンを強制着陸させるはずが返り討ちに遭ったのだ。
あの戦いは2人にとって屈辱的だった。人質を取られて実力を発揮できず、予想外の攻撃を受けて撤退に追い込まれたのだから。
だが、次に出会った時はそうはいかない。残された映像や記憶を頼りに、あの凄まじい炎の噴流を回避、または撃たせないようにする方法をひたすら研究した。
今なら避けられる。必ずや攻撃をかわし、必殺の対戦車ミサイルを叩き込むのだ。
そして、その機会はすぐにやって来ることになった。横田がレーダー画面を監視していると、グリフォンより明らかに速い航空機がすぐ近くを飛行しているのを発見したのだ。窓の外へ目をやると、忘れもしない血濡れの殺人鬼のような赤い鱗を身にまとったドラゴンが、翼をはためかせ同じ方向へ飛行していたのだ。
「カズ、3時方向から敵機。奴だ」
「奴はヴァン・ヤニングスのペット、当然といえば当然ですか」
三沢は冷徹に呟く。ヤニングス本人が最重要作戦に出張っているのだから、奴がどこかで張っていても不思議ではない。
そして、これは千載一遇のチャンスでもある。戦場に向かっているということは、皇帝を撤退させるために行動していることになる。それはまさに人質がいないということでもある。
「貴重な航空戦力です、ただの撤退支援ではなく、アシとして使うつもりでしょう。奴を倒せば撤退を阻止できます」
「ならば、やるしかあるまい」
「艦長に指示を仰ぎます。連絡を」
「了」
横田は通信機を起動すると、矢沢に連絡をつける。
「こちらヴァイパー3、赤いドラゴンの接近を確認。攻撃許可を。送れ」
『出てきたか。ここで妨害されるとまずい、撃墜を許可する』
「了」
確認だけを取ると、横田は足早に通信を切って火器管制装置を起動する。
通信機越しに銃声や爆発音がひっきりなしに聞こえていた。向こうも大変だが、ここでドラゴンを倒さねば戦況がひっくり返ってしまうことは間違いない。
三沢は矢沢らの無事を祈りつつ、ジョイスティック型の操縦桿を引いて上昇した。
「ここで決着をつけます。コウ、行きますよ」
「来い」
三沢が檄を飛ばすと、横田もそれに応える。
現在、AH-1Zには8発のAGM-114L、通称ヘルファイア2を8発、そしてATASと呼ばれる空対空ミサイルを2発、そして追加の燃料を納める増槽を2基装備している。ATASは小回りが利くが威力は低く、逆にヘルファイアは低速で機動性も低いものの、戦車を破壊できるほどの威力を備えている。当たれば確実にダメージを与えられるはずだ。
「まずはガトリング砲で牽制しましょう。動きが鈍ったところにヘルファイアを叩き込んでください」
「わかっている」
横田は機首の20mmガトリング砲をHMSDモードに設定、横田の目線に機銃が向くようにする。これで敵を狙い通りの方向へ誘導し、対戦車ミサイルを叩き込む算段だ。
一方で三沢は機首をドラゴンへと向けて追跡しているが、向こうはこちらに振り向く様子もない。ヘリは常にローターブレードやエンジンの騒音を発しており、気づかない訳はないのだが。
「敵、針路変わらず。無視されていると思われます。舐められていますね」
「ならば、敵に脅威だと教えてやるべきだ」
横田はミサイルの発射準備を開始した。まず叩き込むのはヘルファイアだ。回避しないのであれば、喜んで撃たせてもらうだけだ。
まずは1発目のヘルファイアを背後から発射。ドラゴンは回避行動を取ったが、やや音速を超えるミサイルはCRSの誘導に従い飛行し、真っ直ぐに突っ込んでいった。
ヘルファイアはタンデム弾頭という2段式の弾頭となっている。1段目の小型弾頭が鱗を打ち砕き、本命の2段目が内部に突入してダメージを与えるのだ。
「ウオオオオォォォォォウ!」
戦車をも破壊するミサイルの攻撃を受けたドラゴンは、金切り声と煙を上げながら落下していく。
「攻撃成功。敵は墜落中」
「油断禁物です。敵は得体の知れないモンスターですから」
攻撃を成功させても、あくまで冷静に。これは作戦の一環に過ぎないのだから。
そして、三沢の予想は当たった。ドラゴンは森に突っ込む直前に体勢を立て直し、再び空へと舞い上がる。
「空戦においては残っているエネルギーが重要です。頭を抑えてください」
「了」
横田はすかさず機関砲の管制に戻り、ドラゴンの上昇を防ぐために射撃を行う。攻撃に転じようと反転したドラゴンは離脱を試みるが、ヴァイパーはそれを許さず頭上から機銃弾を浴びせていく。かなり強靭な鱗のせいでダメージは薄いようだが、それでもダメージはダメージ、受け続ければいつかは倒れる。
「次を撃ち込む」
ヴァイパーがドラゴンに接近したところで、今度こそ確実に撃墜するためヘルファイアを2発まとめて発射。ミサイルは白い尾を引きながらドラゴンへと殺到する。
しかし、ドラゴンも無抵抗ではなかった。急激に頭を上げ、進行方向に腹や翼の皮膜を見せる形を取ったのだ。
「あれは……コブラ!?」
「馬鹿な、ここでエネルギーを捨てるのか」
三沢と横田は一斉に目を疑いながら驚愕していた。
空戦においては、いかに持っているエネルギー量が多いかが勝負の分かれ目となる。それは速度や高度といった形で保存されており、高い高度を高速で飛行していれば優位となる。
しかし、コブラと呼ばれる機体を前に立てる機動はそれを一気に失う危険な行動であり、回避するための速度を失う故にミサイルや機銃の餌食となる。
そのはずだが、ドラゴンは起死回生の一手としてそれを行った。機銃を受けながらも急激な減速と軌道変更によりドラゴンは後方へ回り込み、ミサイル2発をことごとく外れさせてしまった。
おまけに、速度を失ったことでヴァイパーには追い付けなくなるはずが、ドラゴンは後方から速度を爆発的に高めながら後方から追い付いてきたのだ。
「バカな、どうやってエネルギーを回復させたんだ」
「後方に食いつかれました、回避不能」
ありえないことの連続に戸惑う三沢と横田。もはやドラゴンはすぐ後方まで迫っており、口腔内に炎を溜めていた。
またもや敗北したのか。三沢は二度目の敗北を悟り、歯を食いしばりながら目を閉じた。
しかし、10秒ほど経っても機体に変化はなかった。一度小さな衝撃は来たものの、それだけで機体の警報は一切鳴っていない。
「これは、どういう……」
だが、後方を見てみると、確かにドラゴンの炎が機体を包まんばかりに放射されていた。しかも、機体を避けるように。
ドラゴンの火炎放射が収まると、窓の外から人が現れた。次々に起こる突然の出来事に、三沢は脳が追い付いていなかった。
「あ、あなたは……」
「よかった、無事みたいだな!」
三沢は窓に張り付く少年に見覚えがあった。
確か、オルエ村からアメリアを追って来たらしい、ガルベスという少年だ。
声はローターとエンジンの轟音でかなりかき消されてはいるものの、辛うじて聞き取れる。
「あなたがなぜここに」
「アメリア姉さんを助けに来たら、お前らが通りかかったのが見えたんだ。あっちはアイツに任せて、オレはこっちを援護しに来たんだ」
ガルベスは得意げに歯を見せながら笑っていた。
どうやら、ガルベスがドラゴンの炎を防ぐため防御魔法陣を展開していたらしい。
「ファインプレイです」
三沢は短く礼を言うと、ドラゴンを引き離すために高度を下げながら速度を上げていく。ドラゴンもそれに追随していたが、今度はヴァイパーも反撃の時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます