12話 異世界の戦い
村は水を打ったように騒がしくなっていた。
鍬を持っていた男たちは粗末な剣や槍を握り、女子供はトーチカらしき場所に我先にと身を隠していく。普段から村の襲撃に慣れているのは行動から見てもわかる。
我々は村でも小高い位置にある丘に登り、アメリアを含む『守護者』たちが配置されている村の入り口を偵察していた。
「準備はいいな?」
「はい、もちろんです」
波照間は自前のスマートフォンを取り出し、録画を始める。これから始まることは何が何でも記録しておきたい。
それから少し待つと、守護者たちが一斉に動き始めた。森の奥から魔物が現れたらしい。
「艦長、始まったみたいですぜ」
「敵の姿が見たい。どこにいるかわかるか?」
「12時の方角、アメリアちゃんのすぐ近くです」
鈴音の報告を頼りに、言われた方向へ双眼鏡を向ける。
すると、そこには緑色の肌を持った人型の生命体が、こん棒を持って村の方へ突撃しているのが見えた。それも何十体も存在する。
その生命体はくすんだ緑色の肌を持ち、その背丈は子供のそれに近い。顔立ちはやせ細っており、魔女のような大きな鉤鼻を持ち、目が少しばかり飛び出た醜悪な姿をしている。
同じく姿を見たらしい佐藤は、うひゃあ、と小さく声を上げて狼狽しながら言葉を続ける。
「ありゃゴブリンって感じですね。気持ち悪いったらありゃしない」
「って言いながら嬉しそうじゃねえかよ! このゲームオタクが」
佐藤の隣にいた大宮が彼に突っ込みを入れる。どうやらゲームファンにとってゴブリンという生き物はなじみ深い存在であるようだ。
一方、守護者たちは真剣に敵と対峙している。男たちは剣や槍で敵部隊に突撃し、アメリアも同じく敵の真正面へ移動している。
「おいおい、アメリアちゃんやばくないか?」
「あたしもそう思う。あれじゃ格好の的よ」
鈴音と波照間の言う通り、彼らは敵の真正面から突っ込んでいる。何の援護もなく突っ込む姿は、明らかなド素人の行動だ。
「このままじゃやられるぜ。艦長、オレたちが支援すべきじゃないですかい?」
「そうらしい。敵の数も守護者の数を大きく圧倒している。行くか」
「よっしゃ! それでこそ艦長!」
鈴音のやる気に満ち溢れたガッツポーズは、他の部下たちの士気を上げるには十分な効果があったらしい。波照間を含め、隊員たちの顔に迷いはなかった。
「よし、これから我々は村の防衛に手を貸す。総員、戦闘配置」
「ラジャー!」
隊員たちは私に敬礼すると、すぐさま小銃の安全装置を切り替え、すぐに銃を撃てるよう態勢を整えた。
* * *
現場に到着すると、その場は混迷を極めていた。
ゴブリンたちが守護者の男たちを包囲し、今にもこん棒で襲い掛かろうとしている。男たちも背中合わせになりながら戦斧を構えるが、やられるのは時間の問題だ。
「1時方向、ゴブリンに包囲された守護者。支援する」
「了解!」
矢沢と波照間、鈴音の班は彼らを支援すべく銃口をゴブリンに向ける。
だが、どこからともなく強い光の束がゴブリンの一部を覆い尽くした。それが収まったと思えば、ゴブリンたちはその場に倒れ伏していたのだ。
「何が起こった?」
矢沢はとっさに光の束が飛んできた方に目を向けた。すると、そこには手をゴブリンたちにかざしたアメリアがいたのだ。
アメリアは続けて両手を握ると、その手から強い光が放たれた。光は剣の形を取ると、彼女はゴブリンたちに向かって駆け出していく。
「エンゲージ・スラッシュ!」
力強い叫びと共にアメリアは空中へ飛び上がり、ゴブリンたちの頭上に躍り出た。そのまま体を回転させ、周囲の敵を回転切りで一掃していく。
まるで舞踊のような華麗な一撃で、十体のゴブリンが体を胴体から両断されていたのだ。
丈が短いとはいえ、白いレースワンピースという恰好からは想像もつかないほどアグレッシブなアメリアの姿に、矢沢は声もなく圧倒された。
私が知る現代戦とは全く違う。あれが『魔法の戦い』というものなのか。
「すご……」
「こりゃすげえ! 負けてられませんぜ艦長!」
波照間は開いた口が塞がらず、鈴音は対照的に、子供のようにはしゃいでいた。
そんな我々に気づいたアメリアは、慌てふためく残りのゴブリンを男たちに任せて駆け寄ってくる。
「ヤザワさん!? 何でこんなところにいるんですか!」
「いや、我々も村を防衛することにしたのだが……」
「ここは私たちで大丈夫なので、ここは退避してください」
「そういう訳には行くまい。我々とて武力を持った実力組織、それも村に厄介になっている身だ」
「それは、そうですけど……」
アメリアは浮かない顔をしながら俯く。
逃げてくれと言うでもなく、部外者である矢沢らの行動を否定するでもなく、更に言えば戦わないことも肯定しない。彼女は何を考えているのだろうか。
「アメリア、私たちは3日だけとはいえ、この村に滞在させてもらっている。何かあれば村の役に立つことをするのが筋というものだ。共に戦わせてほしい」
「は、はい」
アメリアはまだ暗い顔をしていたが、気持ちは伝わったらしい。私の言葉に頷くと、再び両手に光の剣を召喚して敵に相対していた。
「前方の敵集団を叩きます。皆さんは援護を!」
「了解」
矢沢と波照間、鈴音は短く返答し、アメリアが突っ込んでいった敵集団へ銃口を向ける。数はおよそ三十体、小隊規模だ。
アメリアが先ほどと同じく回転切りで集団の中央を排除する。それに合わせ、私は彼女の左手から接近しつつある六体のゴブリンに照準を合わせ、フルオートで小銃を発射。放たれた5.56mmライフル弾が次々にゴブリンへ着弾し、糸が切れた人形のように地面に伏していく。
「異世界の魔物相手にも小銃が効くらしい」
「こっちも上々ですぜ」
「私たちも負けていませんね!」
鈴音と波照間もアメリアへ近づくゴブリンを次々に排除し、アメリア自身も正面のゴブリンを斬りつけていった。
数秒と経たないうちに、ゴブリンの小隊が壊滅した。異世界人と共に戦うのは初めてだったが、よくやった方だろう。
「すごい……ヤザワさん、今の何ですか!?」
敵を倒し終えたアメリアはこちらへ近づくなり、目を丸くしながら矢沢を見つめていた。
何らかの反応をするのはわかっていたが、大きな音にも怯まずに興味を持ってくるとは思わなかった。
矢沢は少しばかり困惑しながらも、小銃を前に出してアメリアへ見せる。
「これは小銃、もしくはアサルトライフルという、我々の主要武器だ。金属の弾を発射して敵にダメージを与える」
「すごいです! 全然魔力を感じないのに、遠くから一瞬で叩き伏せるなんて!」
「ああ、ありがとう……」
戦闘中にも関わらず、目をキラキラと輝かせながら迫り来るアメリア。もしかすると、彼女はどこかズレたところがあるのかもしれない。
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