第58話 シロヤマの趣味Ⅰ

「そうそう。折角、生きる希望を見出したんだし、ここで成仏しちゃうのは勿体ないじゃん?だから捜しに行こうよ。本当のまりんちゃんをさ」

 軽いノリで口を挟んだシロヤマがウインクした。

「勿論、そのつもりよ」

 シロヤマを軽くあしらったまりんは改めてカシンに顔を向けていた。

「今の私が、幽霊になる前と変わらない生活を送れているのはやっぱり……あなたの仕業なの?」

「いや……それは私ではなく、君自身の仕業だろう。おそらく無意識のうちに、自身の特殊能力が働き、魂魄体になってもなお、通常と変わらぬ生活ができているのかもしれない」

 あくまで、私の推測に過ぎないがね。

 カシンはそっと言葉を付けたし、穏やかな笑みを浮かべて返答した。

「赤園まりん。君に、改めて問う。この世に未練がなければこの場で魂を回収する。だが、まだこの世に未練があるのなら……このままの状態で残留決定だ。君なら、どちらを取る?」

「勿論、この世にまだ未練があるから、残留するわ」

 今までとは打って変わり、真顔で尋ねたカシンに、まりんはどうどうと答えた。

「君なら必ず、そうこたえると思っていたよ」

 ふっと、降参の笑みを浮かべたカシンは言った。

「未練を晴らすといい。それまで我々は、君を見守ることにしよう」

 こうして、死神との和解が成立し、命懸けの戦いは幕を閉じたのだった。


「なぁ、シロヤマ」

 数日後。美舘山町の外れに位置する廃墟ビルの屋上で、真顔を浮かべる細谷が不意に話を切り出した。

「あの時ここで、俺の矢に射貫いぬかれた筈のおまえが、なんで今もこうして立っていられるんだ?」

 徐に尋ねた細谷と対面するシロヤマは別段、驚きはしなかった。

 何故なら、事が起きた時から、いつかは訊かれるだろうと予測していたからだ。

「突然、呼び出すから何事かと思えば……そんなの訊いて、どうするんだよ」

「いいから答えろ!さもないと……」

 上下ダークスーツの、パンツのポケットに両手を入れ、キザな雰囲気で佇むシロヤマを、細谷は脅しにかかった。

「この恥ずかしい画像を、今すぐネット上にバラしてもいいんだぜ?」

 あくどい笑みを浮かべて、制服のジャケットの内ポケットから取り出した細谷のスマホを見た途端、ぎょっとしたシロヤマが青ざめた。

 かわいくて大きな(フリフリのかわいい服を着た)ウサギのぬいぐるみを抱きかかえて幸せそうにベッドで眠るシロヤマの寝顔が、細谷のスマホ画面いっぱいに映し出されている。

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