第56話 決断の時Ⅱ

 しばし、真一文字に口を結び、老剣士とともに地上を見下ろしていたカシンはふっ……と降参の笑みを浮かべた。

「そうだな」

 銀色の剣を片手に、凛とこちらを見据える赤園まりんは今や、強力な味方仲間を作り、死神総裁の力を以てしても敵わない強者となった。今はこれが限界だ。ならばこれ以上、争う必要はない。

 不意に携えていた大鎌を、念力で以て消したカシンは、音も無くスッと、屋上に降り立った。

「そう、身構えるな。今の私はもう、君と戦うことを望んでいない」

 穏やかな笑みを浮かべて告げたカシン。その言動に、剣を構えたまりんは怪訝な表情をした。

「まずは話を聞いてくれ。その後で、私をどうこうしてもらって構わない」

 カシンはしれっと言った。

「……話って、なに?」

 警戒を緩めず、まりんは尋ねる。

「我ら死神が君を狙う理由……それについて今ここで、はっきりとさせておきたい。その方が、君もすっきりするだろう?」

 確かに、それは一理ある。どうして死神にいのちを狙われなければならないのか。

 今までもやもやした気持ちを抱えていたまりんは構えた剣を下ろした。

「いいわ。聞こうじゃない。死神総裁のあなたから……私が、死神あなた達に狙われる理由を」

 警戒心は解かず、凛と前を見据えたまりんは了承した。

「では、語らせてもらうよ」

 いくぶん安堵したように、カシンは返事をすると理由を語り始めた。

「我ら死神が君を狙う理由。それは……君自身が生身の人間ではなく、魂魄体こんぱくたいそのものだからだよ」

 まりんを含む、一同が驚愕した。緊迫した空気が辺りに漂い、凍りつくような静けさが屋上から全ての音を消し去った。

 いつになく、真顔を浮かべるカシンは話を続ける。

「これはあくまで、私の推測にすぎないが……君が今の姿になる前、何者かに襲われた可能性がある。

 そして、君の本当の体はまだ見つかっていない。結社総出で捜索を続けているがね。

 多くの謎は残るが、生命いのちを最優先とし、魂魄体の君を保護する目的で我らは接触したのだ」

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