第32話 死神さまの弱点Ⅰ
「やっぱり、来やがったか」
まるで、細谷が結界の中に飛び込んで来るのを予測していたかのような口振りで、老剣士が静かに呟いた。
「セバスチャンとの対戦中、あんたの姿が目に入ってな。迷惑承知で
腕組みしながら仁王立ちする老剣士と背中合わせになりながら、仏頂面を浮かべた細谷は素っ気なく返事をする。
「うっ……」
負傷した左肩が
「……怪我してんのか」
「別に、大した怪我じゃない」
「なら……いいがな」
声のトーンを変えずに返事をした細谷を、怪訝そうに一瞥した老剣士がぽつりと呟く。
「んで、セバスチャンとの
決して振り向かず、嗄れ声で尋ねた老剣士に鋭さを感じ、細谷は俯き加減で小さく返事をした。
「……まだだ」
「そんなこったろうと思ったぜ」
想定内の返事を聞き、にやりとした老剣士が細谷に言う。
「しょうがないだろう。今の俺じゃ、力不足なんだからよ」
「
この老剣士、見た目は
「あんたが張る結界の中が一番、安心だからな」
今は、これでいいんだ。ここで、時が来るのを待つ。
シロヤマ……あいつ、一体なにを考えてやがる。
一時休戦モードに入った細谷は、焦る気持ちを抑え平常心を保つと、ただ時が経つのを待った。
強靭な体付きの老剣士が見据えるその先に、凜然と佇む死神総裁カシンの姿があった。
老剣士は金色の結界を、カシンは銀色の結界を張り、双方身を護りながら空中で対峙している。
その脚下では、
「いい加減、諦めたらどうだい?」
「
フンッと意地悪な笑みを浮かべて降参を勧めるシロヤマに、まりんは憤然と拒否した。
「そっちこそ、諦めたら?」
「そんなのお断りだね」
素っ気なく勧めたまりんに、シロヤマはポーカーフェースで断った。
こうして読むと余裕のある会話だが、もっか対戦中の朱雀と不死鳥の、紅蓮の炎の暑さと気力の消耗とで、まりんとシロヤマの二人には余裕などない。
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