第30話 攻防戦上の赤ずきんⅠ

「……」

 冷酷なセバスチャンの不意打を食らい、負傷した左肩を右手で押さえながら、くっ……と歯噛みした細谷は、セバスチャンを睨みつけるだけで返事はしなかった。

「健悟くん、あなたの相手は、この私です。赤ずきんのを助けたければ、私をたおしてからになさい」

 右手に携えた剣を構えたセバスチャンがそう、油断した細谷に向かって冷やかに言葉を投げかけた。


 そうだ。みなとみらい行こう。

 某、鉄道会社のテレビCMのノリで家を飛び出したのは、今から三時間前のことだ。

 もうあと二時間ほどで日没になる今に至るまで、ある意味、貴重な体験をすることになろうとは、まりんは夢にも思わなかった。

 そして今、死神に屈しない、強い意志がなければ立っていられないほど、冷酷な雰囲気を漂わすカシン死神と対峙している。

 鋼の勇気の鎧を身にまとい、武器となる銀の剣を右手に携え、まりんは突進した。

「……っ!」

 瞬間移動でもしたのだろうか。カシンめがけ突進するまりんの行く手を遮る何者かが、忽然と姿を現した。

 行く手を遮るその姿を目にし、思わず息を呑んだまりんの顔に衝撃が走る。

「ここから先は、一歩も通さないよ」

 酷く冷たい顔をしたシロヤマがそう、立ち止ったまりんに告げた。

 遡ること、二時間半前。お気に入りの赤いロングコートを着て、頭からすっぽりとフードを被り、家を飛び出したまりんのもとに、一本の電話が入った。

「逃げろ。死神がおまえを狙ってる」

 電話口に出たまりんに、細谷は開口一番、そう告げた。

 死神のシロヤマと出会ったのは、細谷があまりにもシリアスな口調で、まりんに危険を知らせた直後のことだった。

 その時はまだ、シロヤマを本当の死神と認識していなかった。

 分刻みで時が過ぎて行くうちに、シロヤマが本物の死神であることに気付くわけだが……

 こうして、廃墟ビルの屋上で向き合うまりんが畏縮するほど、今のシロヤマには死神としての迫力があった。

「シロヤマ……どうして……」

「使命を全うするためだよ。きみには酷だけど……そのいのち、死神の名において、この俺が回収させていただく」

 どすの利いたシロヤマの声に、青ざめたまりんの背筋が凍りついた。

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