EP2 開戦直前

第5話:超戦闘員

失ったものを取り返そうとするには、必ずそれ相応の代償がいる。土を求めるものからは水を奪い、翼を求めるものからは足を奪う。命を奪うものからは命を奪う。この世界の、当然の、摂理。


2020/4/30

四月が終わろうとし、ポカポカした季節がゆっくりと蒸し暑い季節に変わっていく。そんな中一足先に夏を感じさせるような熱い少年がいた。

「あの人たちが帰ってくる!?」

安土アヅチはいつにもまして大きな声を出す。

「そっ。今日ね。」

高橋タカハシは乱雑に置かれた書類の中から一枚の紙を探していそいそとしている。

「こりゃまたうるさくなんな。」

和泉は少しいやそうな顔をしながら台所からお茶を汲んできた、いつもより二つコップが多い。

CHASEREチェイサーの中でも一二を争う強さを持つ三人…。その名も超!戦闘員!」

「久しぶりに聞くと、ネーミングセンスまじでねー。」

長宮ナガミヤはスマホをいじりながらケタケタ笑う。

「で、いつぐらいに帰ってくるんですか!」

安土は再び高橋に詰め寄る。

「さっき出たとこらしいけど、そんなに遠くもないし、もうすぐ来るんじゃないか?」

コンコン

チェイサー作戦本部の鉄扉が何者かによって叩かれた。

「お出ましか。」

高橋は背伸びして腰を浮かす。

ギィーッ・・・

扉が静かに開く。

「たっだいまーーー!」

「ただいまー!」

鉄扉から現れたのは、ゴーグルを額にかけた男と、もう一人………?

「師匠ォォ!」

「よう、安土、元気してたか?」

「師匠もこんなにちっちゃくなっちまって、俺よりちっちゃくなってる…檻の中つらかったでしょう?」

「いや、オレはもともとこのサイズなんだが…。」

安土から「師匠」呼ばわりされるこの人物。いや、人物では決して無い。それは身長が六十センチにも満たない。ウサギであった。

「え、安土。オレは?」

ウサギの紹介によりほったらかしにされていたこのもう一人の男。彼の名前は吉田ヨシダ 創介ソウスケ。彼についての説明はまたしよう。

「で、どうして檻なんかはいってたんですかー?」

木野田キノダは一足先にお茶を啜りながらウサギ…エイトに話しかける。

「いやーそれがよ、こないだちょっとTRANPトランプと関わりがあるって噂の暴力組織に捜査に行ったときにな、なんかちょっとぐれたボンボンの息子をケガさせちまってよ。裁判でムショ送りになっちまった。」

「全く…気を付けて下さいよ。」

山本ヤマモトは半ばあきれている。

「で、まぁそれと関係ある話なんだが。」

吉田は急にしゃべり始めた。

「オレの持ってた武器を、ちょいと拝借されちまってよ。なんかじゅうとうほういはんーとか言ってヨ。」

「銃刀法違反くらい覚えといてもらえます?」

「まぁ、何か知らんけど取られちまったから、また買いに行かなきゃいけねぇのよね。」

「この上下田で武器を買うってなったらあそこですか。」

「あぁ…行くしかねぇな。恵比寿台エビスタイの管区。付加和区フガワクにな。」


「Cコーポレーション?」

竹本タケモトはカップ麺を啜りながら目を細めた。

「はい。上下田の中のほとんどの電子機器を作っている会社、Cコーポレーション。最近は、上下田の中だけには留まらず、全世界へと市場を広くした経営をしています。今回訪れた依頼は、そんなCコーポレーションで作られたゲームのデータが、破損してしまったということです。」

鴨田カモタは淡々と語る。

「データの破損?それ別に…多分探偵事務所ウチがやることじゃないよな。」

「ですが、Cコーポレーションは前々から探りを入れようと思っていたのです。我々がずっと追っているTAROTタロットに関わりがあるとみて。」

TAROTタロットか…。」

「この間の『根』での事件もあったように、ここ最近、奴らの動きが活発になっているのは確かです。」

「叩けるうちに叩く。理由は何でもいいってことか。」

「それはそうと竹本さん!どんだけカップラーメン食べるんですか!」

緒田オダは怒りながら突然現れた。

「いいじゃん別にオレの勝手だろ?」

「ゴミ捨てに行ってんの誰だと思ってるんですか!」

「………。」

「カップラーメンがいっぱい入ってるゴミ袋捨てに行ったらすごい目で見られるんですよ!近所の方々に!」

「しらねーよ…ってか黒いごみ袋で捨てに行けよ!」

「地域指定のゴミ袋ってあるんですー。そんなことも知らないんですか!」

「うるせぇ子供は黙っとけ!」

「どっちが子供ですか!」

緒田と竹本は言い合いになっている。

(どっちが子供だよ。)

鴨田は自分のリーダーがこれだと思うと少し心配になった。


「うぃーっす。相変わらず開いてんのか開いてないのかわかんねぇな。」

「うるせぇな。」

吉田はフッと笑った。

「いらっしゃいませ…と。」

「よっノリちゃん!」

彼の名前は玉城タマシロ 紀由紀ノリユキ。上下田で唯一武器を販売している人物。なぜ武器を販売できているのか、なぜこんな場所で店を開いたのか、と言うことに関しては謎である。

「こんにちは~おじゃまします。」

「よぉ安土、元気してたか?」

「お久しぶりですね。調子どうですか?」

「んーまぁボチボチだなぁ…。」

玉城は頭を掻きながら座布団を出した。

「で?今日は何を。」

「いつものやつ、頼むわ。あの材料が安いやつ。」

「おう。取りに行ってくるわ。」

玉城はのれんの奥にダラダラと取りに行った。玉城がいなくなってすぐに店の扉が乱雑に開けられた。

「フッなかなかにしけてやがるな、服にカビが生えそうだぜ。」

入ってきた男は両手をポケットの中に入れており、右に左に大股で足を開けながら歩く。

「すいません、どちらさまですか?」

安土は(なんか嫌な感じだな)と思いながら聞いた。

「あぁ?俺はここにいるって噂の玉城ってやつを探しにきたんだよ。あいつを使えばうちの会社もがっぽがっぽ大儲けできるぜ。」

「お前…。」

安土は眉間にしわを寄せる。

「吉田、これでいいよな?ハイこれ三千三びゃ……誰だお前。」

「おぉあんたが玉城か。評判は聞いてるぜ、どうだ?うちで働かねぇか?」

「…………。」

玉城は黙っている。

「特別料金で……雇うぜ?」


ビキッ



ドンガッシャーン!

「すまねぇ紀ちゃん、扉壊しちまった。」

吉田はなんの悪びれもなく言う。

「クソっ…て、テメェら!何してんのかわかってんのか!」

「はぁ?それはこっちのセリフだバーカ。テメェこそ何してたかわかってんのか?」

安土は睨みつけながら話す。

「紀ちゃんに」

「謝れよ。」


つづく。

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