第2話:動乱

「おいお前ら、喧嘩するのはもうやめろ。」

長宮ナガミヤはやれやれと言う顔をした。

「全く、お前がそんな熱くなることがあるなんてな。」

竹本タケモトは少し驚いたような顔をしている。

「だって所長、こいつが……。」

「あーもう、うるせぇうるせぇ。てめぇは初めて会った時からそうだ。クールぶって、ふとしたことで熱くなりやがる。」

安土アヅチはあきれたように鴨田カモタを小馬鹿にする。

「あ?なんか言ったか安土、このが。」

「うっせぇんだよが。」

二人は隙あらば喧嘩を始める。

「あーもうるせぇ!!!」

竹本タケモトがキレた。

「おら行くぞ鴨田カモタ。」

「えっ…しょちょっ。」

「ほんじゃぁオタクらは好きにやってもらって。私らは行きますんで。」

鴨田カモタの首元を「ガッ」と掴むと、所長は足早に去っていった。

「どうしてこんなことするんですか、あいつに話が有ったのに…。」

「そんなことよりも…だ。緒田オダが反応を確認した。」

「!?」

「反応はヌル フィーア エルフ。」

「と言うことは……!?」

「やっと愚者フールが動き出したか。」


「俺たちは俺たちのやることをするぞ。」

長宮は全員の指揮を上げようと大きな声を出した。

「行くぞーーエイエイオー!」

「何だ!こっちから声が聞こえたぞ!」

建物を挟んだ向こうから声が聞こえた。

「あ、やべっ。」

「一人ででかい声出してばれるって!なにやってんすか!?」


チェイサー本部

「今回追っているJUGGERジャガーは恐らくボルミトの息がかかっている。」

「ボルミト?」

「あぁ、木野田キノダ君にはまだ説明してないか。」

「ボルミトって何なんですか?井切イギリさん。」

「ボルミトってのは、TRANPトランプの幹部の一人だよ。」

「はぁ……。」

「何の目的かぁ知らねぇが、どうも多数の日本人を従えて、ジオットの根で暴れててるんだ。」

「さてと、オレも行くとしますかね。」

高橋タカハシさん…行くんですか?」

木野田が問いかける。

「あぁ。上から回された書類に目ぇ通すよりも、こっち行った方が楽しいだろ?」

「あなたらしいですね。」

「んじゃっ。」


「行くぞ安土!」

「ハイ。」

るぞぉ!」

「おいおいアンちゃんたちぃ…この数が目に入んねぇのかよぉ。」

リーダーらしき人物は両手を無造作に広げて、後ろの奴らとともに嘲笑した。

「はっ、バカはお前らの方だろが。」

「あぁん?」

「オレの名前は長宮ナガミヤ 小松コマツ。チェイサー特攻戦闘員が一人。」

「お、おう。」

「所持するカルマは…」

一瞬。長宮ナガミヤは敵のリーダー格のもとに走りこんだ。

「バカがよぉ!」

リーダー格は銃を構え、迎撃の態勢に入った。刀を横にビュンッと振る。

刀はそのまま空を切った。

長宮ナガミヤは深くしゃがみ込んでいた。

「カルマズ・フットvorキック」

長宮ナガミヤの足はものすごいスピードで蹴り上げ、リーダー格の顎を逆向きにさせた。

「グハッ!」

長宮ナガミヤは連続して左足をその後ろにいた奴の頭に自らの足を強くぶつけた。さらに右足を隣の奴、左足を回転させ…と連続でコンボを決め込んだ。

「だから言ったろ、戦闘員だって。」

こちらを狙っていた敵の舞台は全壊した。

「こんなもんか。」

「僕が出るまでもなかったですね。」

「おっ、すまねぇ安土アヅチ。お前の出番取っちまって。」

「まぁ…ない方が良いんですから。」

「当たり前だろ、何無駄な争いしてんだ。お前ら。」

「げっ。」


「久しぶりだな、フール。」

「やぁ、こんにちは。君は?」

「オレの名前…か?」

「そうさ。君にはしっかりと名前を名乗ってもらわないとね。」

「フール」と呼ばれる人物は、つぎはぎのデザインが施された鹿撃ち帽をかぶり、キラキラした瞳をしている。

「別にんなことどうでもいいだろ?今日こそはトッ捕まえてやるぜ。」

「捕まえる?君は何の権利があって僕を捕まえるのだい?国か?お国のためなら僕は捕まらないよ。」

「個人の目的なら?」

「対応による。」

「おいフール!!オレにやらせろよ!」

「ストレングス。君は少し落ち着き給え。」

「おいエンペラー、なんでてめぇは落ち着いてられんだよ。久々にワールドに許可してもらったんだぜ!?」

「それはお前だけだ、我々はいつでも外に出れる。」

「おいおい、お前ら何ケンカしてんだよ。戦うなら早くおっ始めよぉぜ。」

「おぉっ!?なかなかに面白い旦那だなぁ、話が分かる。」

「所長。遊ぶのも大概にしてくださいよ。」

「今から遊ぶんだからいいだろ。」

「全く…。電話、しておきますね。」

「?誰に。」

緒田オダ君に…ですよ。」


ピロロロロロロロピロロロロロロロ

「はい、緒田オダです。鴨田カモタさん?」

『ま、なんで電話したかわかるよな?』

「増援ですね。」

『話が早くて助かる。』

「もう行かせてあります。」


「よぉ、鴨田カモタぁ。だいじょぶかぁ?」

鴨田カモタの後ろから、サングラスをかけた少しごつい体格の男がきた。隣には目を包帯でぐるぐると巻いたほっそりとした女性もいる。

武田ムタさん。それと、山中ヤマナカさんも。」

「所長ぉ。勘弁してくれよな。今日は俺の予定では休日だったのにサ。」

「別に来いなんか行ってないぞガイキ。」

「まぁまぁ二人とも。落ち着いたら?」

山中ヤマナカさんは二人の小競り合いを小さくまとめる。

「それで、やるのか?」

エンペラーと呼ばれていた男は、投げかけるように問いかけた。

「当たり前だろ。」

竹本タケモトは挑発する様に答えた。

「だから言ってんだろ?エンペラー。こいつは話のわかるやつ。だってなぁ⁉︎」

ストレングスは拳をこちらにまっすぐ素早く突き出した。

「もうやる気かっ」

竹本タケモトが臨戦態勢をとった。そこにシュバッと武田ムタが割り込んだ。

「おいおい?拳で戦うんだったら、オレだよなぁ!」

武田ムタさんはカルマを発動させた。

「カルマズハンドvorパンチ」

ドカンッ‼︎‼︎

「そこの女。」

「はい?」

山中ヤマナカはすらりと答える。

「あんた、カルマ持ってるだろう?」

「ウフフ、よく気づいたわね。」

「それも相当な使い手だ。どうだ?オレと一戦を交えないか?」

「良いわよ。」

フッとエンペラーは笑うと、爽快に駆け出した。いや、駆け出したのではなく滑り出した。

「カルマズアイス。」

エンペラーはツルツルと右に左に、左に右に。惑わすようにふらふらと動く。

「随分と変則的な移動方ね。」

ふらふら ふらふら

「でも私の目はあなたを見逃さないわ。」

山中は目にくくりつけていた包帯をスルスルと解いた。

「カルマズアイvorキネティック」

(読める!)

放雷馬転流ホウライマテンリュウ 四十シジュウ四番ヨバン

山中の拳がエンペラーを掴まえる。

「!?」

「電王」

「グフッ!」

状況描写のみだと理解しにくいので一応、少しだけ説明を加えると。山中 四音のカルマズアイvorキネティックは、動体視力が著しく上昇するカルマであり、変則的な行動をするエンペラーの動きを理解して一撃を入れることができた。ということである。

「君は戦わないのかい?戦うのならこちらにおいでよ。」

フールは鴨田カモタに問いかけた

「いや、オレはそっちに行かなくて良いんですヨ。」

「?」

「なぜなら…オレの武器は銃だから。」

カチャリ。銃口がフールをしっかりと捉える。

(速い!)

バキューン!

小さな穴から飛び出した弾は目にも留まらぬ速さで飛んで行った。が、フールはそれをヒラリと躱した。

「もう、危ないなぁ。やるなら言ってよネ。まぁ、こんな球避けるくらい造作もないんだけ…」

バキューン!

続けざまにもう一発。

バキューン!

フールは少し呼吸を荒げている。案の定、鴨田カモタの打った弾は一つも当たらなかった。

(この男、竹本にくっついているだけかと思えば、なかなかに良い判断ができる。)

「君、おもしろいね。」

鴨田カモタはにぃっと笑った。

                                   つづく

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