EP1 JUGGER

第1話:夢の大地

 東京上下田

政府の命令により東京湾は世界最大級の埋め立て地となった。

当時は「未来を変える。」などともてはやされ、「夢の大地」とも呼ばれていた。

上下田が完成してから、約一世紀。

上下田の細部まで治安維持は行き届かず、麻薬の売買から殺人、強盗etc…

「夢の大地」などと呼ばれていた頃が懐かしい。今はもう「夢の大地」などではなく、名付けるならそうだ…といっても、何も思いつかないな。


2220/4/27

「はぁ……。」

「どうしたんですか、ため息なんてまた珍しい。」

そう言うと本田ホンダはコーヒーを差し出した。

「あ、あぁありがとう。」

「で、なんでため息ついてたんですか?」

「例のTRANPよ、犯罪組織の。」

「あぁ…前に聞いた……で、進捗があったんですか?」

「そ、で今から行かないといけないのよ。」

「なるほど、それでここに。」

ここは上下田北口駐在所かみしもだきたぐちちゅうざいしょ。元々は夢の国などと言われたテーマパークがあった場所だが、今は上下田の衰退により、風評被害を恐れた他国の本社が営業を中止した。今は東京都上下田との境界のようなものになっている彼は本田三良ホンダミヨシ巡査部長、コーヒーを飲んでいるのは、公安上下だ対策第七班、イズミ 由香ユカ

「お国もねぇ。FCEだかなんだか知らないけど、そんなわけ分からない組織の言うことなんか聞かなくていいのに。」

「この国はすがるものを欲しているんですよ。」

「そうかしら?」

「で、今から中へ?」

「現場へ急行よ。でも、のほうが先につくでしょうね。」

「あの人たち?」

非政府公認政府直属組織ヒセイフコウニンセイフチョクゾクソシキ。」

「?」

「仮称よ。」


第一話 夢の大地


チェイサー作戦本部

高橋タカハシさん、資料に目を通してもらえますか。」

「あ?わかってんよ、んなこたぁ。」

高橋はダルそうに答えた。

奥から眼鏡をかけた女性が寄って来た。

「早く目を通してくれませんかぁ、仕事が進まないんですよ。」

「そうだよなぁ木野田キノダちゃんもそう思うよなぁ。ホラ、早く。」

「そうは言ってもなぁ。ホラ、あの人はちゃんとやってんじゃねぇか。」

高橋はデスクに座るタバコをくわえた女性を指さした。

「仕事なんで。」

和泉ワイズミさんは仕事の虫すぎるんですよ。もっと…なんかこう、ゆとりをもって。ねぇ?」

井切イギリ君。」

「はい?」

「仕事にゆとりを持たす必要は?」

「へっ?」

「そこに意義が無いなら、私はやらないわ。」

「ゆとりに、意義ねぇ。」

「高橋さん、JUGGERジャガーの件はどうなったのかしら?」

「あぁ、それはな。」

ここで高橋は初めて立ち上がった。

「三人に行かせてある。」


上下田カミシモダ 矢華町ヤハナチョウ 尾牧区オウボクク


空は雲一つない晴天。太陽に対して真っ直ぐと大きな塔が突き刺している。だが、そんなことにひるむこともなく太陽は照り続ける。

「うーん…やっぱジオットはでかいな。」

佐々木は大きな塔を見上げながら呟いた。

「この上下田の創造と崩壊の象徴…でしたっけ。」

「おっ、良く知ってるなぁ、山田ヤマダ。」

長宮ナガミヤさん。あなたとは違うんで。」

「まぁた辛辣な言葉を。」

後ろから誰かが駆け寄ってくる音がする。

「遅くなってすみません。長宮さん。」

「おぉ。安土アヅチ。」

「それじゃあ行きましょうか…って、何を見てるんですか?二人とも。」

「ジオットですよ。」

「この上下田の始まりであり、上下田がお国に見捨てられた大元凶…か。そのせいでこんな地獄の大地が出来上がっちまった。」

「地獄…?ここがですか?」

「他にどこがあるんだよ。」

「へぇ。でも僕はあんまり気にしませんけどね。ここが地獄かどうかなんて。地獄じゃぁないとは思いますけど………さっ、いきましょ。」

「ここが地獄じゃない…なんて、甘っちょろいこと言いますね、安土さんは。」

「ここにそもそも愛も関心もないんですよ。ただただ縁があってここにいる。それだけです。」

「愛の反対は無関心…か。ハッ。」

今回この三人が目指す場所、それはジオットの「根」と呼ばれる建物の密集地帯の中にある一つのビル。

犯罪組織の「JUGGERジャガー」がそのビルを根城にしているという情報を掴んだチェイサーは、そのムーンライトビルに向かった。

同時刻に、同じくムーンライトビルに向かう人影がいた。

「所長、どこに向かっているんですか。」

「特に行く当てもないが、あの大きなビルに一直線に進んでいたら、何か発見があるかもしれんと思ってな。」

「…はぁ。」

「お前も何か夢をもって往けよ。鴨田カモタ。」

「私に大きな目指すべき目的は、無いので。」


「安土!急ぐぞ!」

「ア、ハイ!」


「おいしそうな店とかなんだとか、発見できるものって色々あると思うんだよ。」

「…………。もう帰りましょうよ。」


バタンッ


「あ、すいません。急いでいて。」

「大丈夫ですよ。けがもしてないし、大したことありません。」

「だいじょうぶですかぁ。長宮さん。」

「大丈夫ですか所長。」

そこで安土文乃と鴨田勝は、目が合ってしまった。

《あ。》

「どうしてお前がこんな所に居るんだよ、探偵ごっこ。」

「そっちこそ。警察ごっこが何こんな辺鄙な所に居るんだよ。」

「何だよ二人、知りあいか?安土。」

「こいつは知りあいでも何でもありませんよ、安心してください。」

「そうです、こいつとはただの腐れ縁です。」

「は?」

その問答を見守っている者がいた。

「根」の各部に用意周到に張り巡らされた監視カメラ。

ムーンライトビル内 センターコントロールルーム。

「どうしますか、兄貴。とうとう嗅ぎつけて来やしたぜ」

「案ずることは無い、ただの野良犬だ。」

「へぇ……じゃぁどのような処遇で。」

「叩き潰せ。」

「合点了解です。」

「あぁ、ブレウ。」

「はい?」

「頼りにしているぞ。」

「了解です!!」

ブレウはビル内の放送設備に手を伸ばした。

「ビル内の戦闘者各員に次ぐ、今このビルは襲撃を受けようとしている。総員以って。」



「叩き潰せぇぇぇぇ!!」

今、すべてが始まろうとしている。この上下田を舞台にした壮大な物語が。二人の主人公たちは、時を跨いで再会した。それが運命の歯車をまくエネルギーになるのか、それとも歯車を止める石になるのか。今、狂々クルクル狂々クルクルと。

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