第3話 シラネ②
「ちなみにシラネさんは、引き抜きには合わなかったの?」
「高待遇で迎え入れると、熱心に誘われました」
「それじゃ、何で?」
「あちらの魔王のわたくしを見る目に、何やら邪なモノを感じましたので何となく……豊満なサキュバスにもなびかない、硬派な方とお聞きしていたのですが」
「あー…そういう感じの方なんだ」
魔族に形容するのも何だが、シラネは天使と見紛う可憐な少女だ。宝来尊はポリポリと頬を掻いた。
「考えてみると、それからですね」
そのとき、ふと思い付いたように、シラネが口元に手を当てる。
「え、何が?」
「配下たちの強引な引き抜きが始まったのは」
「あー…」
宝来尊は、思わず苦笑いを浮かべた。それから気を取り直して「うっし!」と気合いを入れる。
何だかよくは分からないが、来てしまったものは仕方がない。やれるだけやってみよう。
「とりあえず、今ここの現状はどうなってるの?」
「魔王さまであれば、玉座に座る事によって全てが把握できます」
「へー」
そこでやっと、宝来尊は肝心の事に気が付いた。
「そういえば、元の魔王はどうなったの?」
その何気ない質問に、シラネは困ったように苦笑いを浮かべる。それから思い出すように目を閉じると、ゆっくりと口を開いた。
「先先代の魔王は素晴らしい方でした。何でも、五億年ほど前には、天上の創造神とも引き分けたと云われています。ですが、三百年前に…」
「まさか、殺されたの?」
「いえ、老衰です。二十億歳の大往生でした」
「はー…」
もはやスケールがデカ過ぎて、何の感想も出て来ない。
「で、肝心の先代は?」
「…あちらの魔王から、お近付きの印にと献上された数人のサキュバスと共に、いつのまにか行方をくらませてしまいました」
「あー…なるほど」
男としては分かり過ぎる程に分かる気もするが、宝来尊は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
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