オープンストーリーシステム
PianoRobot
第1話
そのビジネスマンは、成層圏の別荘にあるソファにゆっくり腰かけた。
ここは眺めがいい。
正確には成層圏と宇宙空間の境目。ネットオークションで競り落とし、ようやくこの別荘を手にしたのだ。
さて、どうしようか、まだ時間はある。とりあえずいつもの「オープンストーリーシステム」を起動してみるか。
「笛」を取り出して、G携線上のアリアの第4小節まで吹いてみる。すると、例のホログラムの文字が周囲に浮かび上がってきた。
題目、妄想、目的、手段、意見、――― そして、物語。
まずは、喉を潤したいので、今度は飲み物要求のフレーズを吹き、“目的”を空中で握りしめる。放射状にパーティクルが飛び散り、いくつか飲み物の候補のアイコンが登場した。コーヒー、紅茶、ジュース、土星の水、宇宙空間で急速冷凍させたジェラート、など。
紅茶をつかみ取ると、協働ロボットがその紅茶を運んできてくれた。
今度は特にあてもなく「手段」をつかみ取る。すると、今度は、サッカーボール、紫陽花、本のアイコンが出てきた。特殊技術による触れることが可能な紫陽花のホログラムを持ってみる。その瞬間、先ほどの「目的」と、紅茶アイコンと紫陽花のそれが糸のようにつながるとともに光る。
そうだ、今度火星の地底80㎞地点初の支店を出すのだが、その看板メニューとして紫陽花のような色の紅茶はどうだろう?などと思いながら、その人物は「妄想」を突っつき始めた。
こんにゃくを触ったかのような音楽と共に七色の湯気が放射状に広がりながら、いくつか情景の映像が目の前に浮かんでくる。
このシステムは、匿名で投稿された様々な体験の「物語」が投稿されており、自由に閲覧できるのだ。
海外の家の一室と思われる薄暗い地下室の不気味なソファ。
広大な草原にポツンと立てれた2階建ての家の玄関前に座る毛並みが豊かな子猫。
同じフレーズでおばあさんに何かを語りかけてる?セキセイインコの鳴き声。
あたり一面が済んだ群青色の海中に漂うサンゴ者やワカメ、魚、クジラ、ロボット、人々。
この海中の景色はとてもいいな。誰の体験かは知らないが、何か想像力を刺激させられる。
そう思いながら、目についた熱帯魚に息を吹きかけてみた。
すると突如、「物語」のアイコンがぷるぷるとはじめたかと思うと、熱帯魚と、さっきの紫陽花と紅茶が結びつき、「起」「承」「転」「結」のアイコンが浮かび上がってきた。
あ、何かいい「物語」ができそうだ、とその人物は直感し、構想を練り始めた。うまくいけば投稿してみて、みんなとシェアしてみるのもいいかも。
そのビジネスマンは、通り構想を練り終わると、「起」「承」「転」「結」のアイコンにそれぞれアイディアを入力して、「物語」への投稿完了のボタンを押した。
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