第86話

皆大好き、ビックリゾンビーのチーズバーグデッシュ。

竜一と雛山は、お昼ごはんに訪れていた。

そこで竜一は、過去の明の旧友に雛山を重ねてみていた。



86



ビックリゾンビー


ハンバーグがメインのファミレス。

お手軽に食べれるレストランの休日は、順番待ちを要求される。

竜一達の前に3組待っていたが、タイミング良く連続で席が空き然程待たずに席に着けた。


「チーズバーグデッシュ150gがお一つ、ミックスバーグデッシュ450gがお一つにポテトがお一つ。以上でよろしいでしょうか?」


注文を繰り返した店員は、さっとメニュー表を下げて席から離れていった。

向かい合う形で座っている2人。

雛山はソワソワと落ち着かない様子だ。

そんな彼を頬杖ついて見ている竜一。


「なぁ、帰りたかったか?」


「あ・・いえ・・・」


YESでもなくNOでもない返事に、このまま帰る気で居たのだと察した。


買い物を済ませてそのままバイクに乗った2人。

竜一は昼飯の事を相手に聞くのを忘れたと思いつつ、そのままビックリゾンビーの駐車場へと入った。

何も言わずに連れて来られた雛山は驚き「腹減ったから食おうぜ」の竜一の言葉に戸惑いながらもコクンと頷いた。

まぁ・・・会って3回目とは言え、会話らしい会話も無かった。

竜一が見る限りでは、目の前の青年は社交的だと感じない。

それに比べて、どんな状況下に放り出されても平気で居られる自分。

明から雛山の買い物を手伝ってくれと連絡がきても、二つ返事で返した。

あのままサヨナラするのも、どうかと思ったからだ。

明と白田の事で泣かせてしまった事も悪いと思っている。


「あの〜・・・結構食べるんですね」


今までの会話は、竜一から話し掛けて成り立っていた。

それがここに来て少し慣れてきたのか、遠慮がちだが雛山から口を開いた。

普段から身体を動かしている20代男性なら、ハンバークの450gぐらいはぺろりだろう・・・・だが竜一はボクサーだ、青年が何を聞きたいのか理解した竜一は苦笑する。


「今は減量はしてね〜よ。2週間前に試合は終わったからな、次の試合の一ヶ月前までは普通に食うぞ」


「そうなんですね・・・いつもどれぐらい減量するんですか?」


「ん〜〜試合の時は58,98kg以下まで落とさなきゃいけね〜な」


「えっ!?そんなに!?僕とそんなに変わらない」


「一時的にだ。試合の3日前から絶食して、一気に落とし込むからな」


一時的だと伝えても、相手の驚きは覚めない。

ポカンと口を開けて「はぁ〜」と声を出している。

そんな青年に、思わず笑いがこみ上げる。

喜怒哀楽が激しい雛山は20代と言うより、まだ10代の様に感じる。

表情もコロコロと変わり、驚き方もオーバー気味。

そんな彼に・・・・似ていたと思っていた奴がいた・・・・・明の旧友。

いや、旧友と言えるのだろうか?

竜一の学校の人間に虐められていた時に、明に助けられ・・・それから彼の側を離れなかった。


「何であの時、あいつ等に言い返さなかったんだ?」


「え?」


「ボクサー殴るぐらいの度胸はあるのによ」


「あ・・・・」


どの時の事を言われているか解った雛山は、俯く。

竜一と出会った時の事だ。


「時間の無駄だからです・・・」


「無駄?」


「あぁ言う人に何言っても時間の無駄ですし、それに僕をどう言おうが我慢できます」


「そうか?俺ならすぐ手が出るけどな・・・」


「それは、亀田さん強いからです。僕のこと理解出来ない人に、解ってもらおうとは思いませんし。今は・・・・僕の事ちゃんと理解してそれでも側にいてくれる人が居るので、それで充分です」


理解してそばに居てくれる・・・

その人の事を思い浮かべているのか、雛山の表情が柔らかくなる。


「だけど。僕の大切な人を傷つけ人は許せないです。喧嘩も弱いし気も弱いけど、大切な人の為なら僕だって立ち向かいます」


例え相手がボクサーだろうと、立ち向かう・・・・・駄々っ子のように泣きながら暴れていた雛山を思い出して、思わずクスリと笑う。


「気は弱くねぇ〜よ。人の為に立ち向かえるなら・・・強くて優しい男だよ、康気は」


「・・・・・・・・」


そんな竜一の言葉に、雛山は頬を染めてモジモジと恥ずかしそうにする。

やっぱり・・・全然、似てない。


「全然違うな」


「?・・・何がですか?」


「お前に似てると思ってたけど・・・全然違うわ」


「・・・・それ、前に言ってた人ですか?」


「あぁ・・・お前と一緒で、あいつに助けられて金魚のフンみたいについて回っていた奴・・・・寒蝉(ひいぐらし)だったか・・・」


「僕、金魚のフンじゃないですよ・・・」


ムッとした表情で、上目遣いに睨んでくる青年。


そうだな・・・あいつは明を利用していただけ。

明が目の前でピンチになろうが、きっと助けようとはしない。


『倖田君と仲がいいんだね。けど・・・もしお互いの高校にバレたら大変じゃないかな?君も幸田君もきっとハブかれるだろうね・・・』


偶然、竜一と明が一緒にいるのを見た寒蝉。

その後、竜一に揺さぶりを掛けてきた。

明グループの輪の中に入りながらも、グループ全員に嫌悪感を抱いていた。

だから竜一に、華拳生徒から今後一切自分を絡まないように言えと言ってきた。

それもある種の自分を守るための方法だろう・・・・・だが、やり方が汚いと感じた。

明に感謝して慕っているフリをしといて・・・・と頭にきた。

だから『言いたきゃ言えよ、その代わり・・・覚悟はしろよ?あいつが何言おうが、お前を何度も病院に送ってやるからな』と相手の脅しに乗らなかった。

結局自分の事しか考えていない寒蝉は、それ以上強く出る度胸も無く・・・・・あの事件に加担して少年院へと入った。

あの事件で少年院に行かなかった人間は2人、逆に少年院に言った3人は・・・・・被害者を暴行した生徒。

寒蝉という人間は虐められていた経験がありながら、弱い人間には強く出る卑怯な人間であったと再確認できた。


対して目の前の青年は、明に助けてもらった事に対して大きな恩義を感じている。

そして明の為とならば、強くなれるのだろう。

明もそれが解っているから、雛山の事を可愛がっている。


あの事件の後、ずっと彼の事を考えていた。

信頼していた仲間達からの裏切り・・・・・行方が解らず傷ついた彼の側に居てやれなかった。

一度、興信所に頼み行方を探ろうともしたが『それがいい方法なのかな。私達の顔をみれば・・・余計に苦しませるだけかも』の姉の言葉に踏みとどまった。

それが良かったのか、今となっては解らない・・・・

だが再会した彼の周りには、彼を思っている人達が居た。

由美や、白田、そして目の前の青年。

空白の時間、彼を支えていた人達が居た事を知っただけでも胸が軽くなった。


「それを言うなら、せめてコバンザメって言ってください」


真剣な表情でそう口にする雛山。

金魚のフンと言われてムッとしていたのは、どうやら言い方の問題だったようだ。


「ぷっ・・・意味は同じだろうが」


「うんこ呼ばわりは酷いですっ」


膝を叩いて笑う竜一に、頬を膨らませて怒っている雛山。

出会った頃の青年のポワンとしているイメージだけは、どうやらそのままのようだ。



87へ続く

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