第78話

雛山が焼き肉パーティーしている頃、フスカルではいつもの風景。

付き合ってもツン×3デレだと思っていた明は意外にも・・・・



78



フスカル



「ねぇ〜〜何かあったのぉ〜?」


カウンター席。

白田の隣に座っていた林檎は、カウンターに頬杖ついて一組のカップルにそう投げかける。


「何かって?何ですか?」


その質問に、質問で返す白田。

明は面倒くさいので、何も答える気はない。


「な〜〜〜んか、違うんだよね〜。2人の雰囲気・・・・」


「そうですか?いつも通りだと思いますけど。ねぇ?明」


白々しい・・・・

林檎が言わんとしている事を解っていながら、シラを切るだけじゃなくそれを明に振る。

偽装ではなく、本当にカップルになった2人。

明自身今まで通りにしているつもりでも、気が付かないうちにそれを醸し出してしまっているのだろう・・・・

林檎はそれに気が付き、怪しげな視線を2人に向けている。


「ほらっ林檎、出来たぞ」


厨房から出てきた雅。

手に持っていた唐揚げトッピングのカレーを、林檎の鼻先に突きつける。


「わ〜〜い、お腹ペコペコだったのぉ〜〜〜」


林檎はカレーを受け取り「お邪魔しました〜〜」とカップルに言うと、BOX席へと移動した。


「明、俺もBOX席にいるから任せたぞ」


雅は明に一声掛けて、BOX席の常連達の元へ向かった。


「今日は金曜日だけど、結構静かだよね」


「給料日前だからだろ」


「あぁ、そういう事か」


「なぁ、もうオレの飲み代払わなくていいぞ」


「?どうして?」


店子が客の席に着く時は、相手からお酒を頂く方式。

店子のお代わり次第で、店の売上が全く違う。

お酒を飲まない雛山とは違い、明は遠慮なく客のお金で飲みたいアルコールを頼みまくっていた。

それこそ数万するシャンパンやワインを何本もあける。

そして白田にも、それなりに店に貢献してもらっている。

明が自分の席につくならば、幾らでも飲んでよと気前の良さで明も遠慮が無かった。

だが今は違う・・・・・わざわざフスカルに来なくても会えるようになったのに、ここにお金を落とす理由がない。


「気にしなくていいよ。俺がしたくてしてるんだから」


「・・・・・・・」


白田の優しい言葉にも、やっぱり納得できない。

そんな感情がダダ漏れだったのか、白田はクスリと笑う。


「そうだ、明。日曜日だけど、家まで迎えに行っても大丈夫?パトロール隊は活動してるのかな?」


「別に家まで来なくても、何処かで待ち合わせすりゃいいのに?」


まだ何処へ出かけるかも決まっていない日曜日。

デートという名目でも、目的は過去の出来事を話す事。

まさか映画館やテーマパークという、ありきたりのデートコースではないとは思うのだが・・・・目の前の白田の顔を見れば、ウキウキワクワクが全面で出ていて自信がなくなる。


「車の方が色々と都合が良いでしょ?だから迎えに行こうかと思って」


なるほど・・・

車ならば場所なんて関係なく、落ち着いて話が出来る。

明は納得して「パトロール隊は活動してると思う」と答えた。


「良かった。本当はね・・・・」


「?」


「一分でも一秒でも長く、明と一緒に居たいんだ」


と蕩けた表情で口にする男に、明はぐっと言葉に詰まる。

そしてタイミングよくカウンター席に戻ってきた雅が、その言葉を耳にして前に踏み出した足を思わず止まってしまう。


「・・・・・察しては居たが・・・・」


歪めた顔を2人に向ける叔父。


「確認するが、本当にそうなったのか?」


雅が言わんとした事を理解した2人。


「はい、お付き合いしてます」とハッキリと返事を返す白田に、明は何も言わずに雅から視線を外す。

別に恥ずかしいとは思わないが、家族である叔父にどう言っていいのか反応に困る。

このままいけば・・・・太郎にも言わなければならない。

雅を受け入れている事もあり、太郎はゲイには理解がある。

だがそれが自分の息子だった場合、どういう反応をするのだろう・・・・・・

またストレスで、毛根が減ってしまったら・・・・

気の弱い父は受け入れるふりをして、影でショックを受けるかもしれない。

明はここにきて男同士で付き合う事で生まれた不安に、顔を曇らせた。



******



「あれれれっ。白君帰っちゃうのぉ?」


「えぇ、明日も仕事があるんです」


会計を済ませて帰り支度をしている時、林檎が声を掛けてきた。

今日は金曜日、普通ならばフスカルの閉店まで居るコース。

だが明日は日帰り出張が入り、朝一で新幹線に乗らなければならない。

しかも会社へ戻り直ぐに議事録や資料を作らなければ、週明けの仕事が出来ない程にカツカツなスケジュール。

なのでフスカルへ来ることも出来ないだろう・・・


「そうなんだ、お疲れ様〜〜」


林檎や他の客の挨拶に応えながら、白田は明と共にフスカルを後にする。

エレベーターに乗り込むまで、明が見送ってくれるのはいつもの事。


「それじゃ〜〜、日曜日に10時に迎えに行くけど。時間は大丈夫?」


呼び出したエレベーターが到着する間、白田は明にデートの時間を確認する。


「ん」


短い返事をしコクンと頷く明。

素直に返事を返す時の、いつもの彼の癖。

それが物凄く愛おしく感じて、明の髪に触れる。

本当はこの場で抱き寄せて、腕の中でぎゅっと抱きしめたい。

だが建物の中とは言え、タイミングよく誰かが店から出てくるかもしれない。

人の目に晒されるとなると、明も嫌がるだろうなとついつい我慢してしまう。

白田の背後で開くエレベーターの扉。


「それじゃ、日曜日たの・・し・・」


白田の言葉が途中で止まる。

明に肩を押されて、そのまま後ずさりしながらエレベーターに乗り込む。

奥壁に背中が当たった。

思わず狼狽えてしまう白田。

右肩は相変わらず明に掴まれているが、彼の左手は後方の壁に・・・

恋人からの壁ドンに、白田は胸がドキンと高鳴る。


「明日、会えね〜んだろ?」


そう声のトーンが低い彼の呟きに、心臓の鼓動が体全体に響くぐらいドキドキしている。

自分も男だが、明も男。

いつもの綺麗な顔なのに、雄の雰囲気を出す明。

そんな明にかっこいいなぁ・・・とうっとりしてしまう。

そんな彼の顔が近付くと、白田は瞼を閉じて明の唇を受け止めた。

こんな感情、女性相手では感じなかった・・・・

付き合って初めて知った明の一面。

恥じらい羞恥から言葉がきつくなっていた明は、彼氏になればちょっとのツンは残るものの・・・・・想像していた以上に甘く・・・・熱く求めてくる。

これが今まで付き合った女性達に向けられたのだろうと思うと、嫉妬してしまう。

だが今は自分だけのもの・・・・

いつの間にか扉は締り、止まったままのエレベーターの中で2人は何度も口づけを交わした。



79へ続く

すみません、明は受けなんですが女性経験も多いので基本は雄っぽい受けになっちゃいます・・・・ベッドの上でどうなるかは、まだハッキリしません。

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