第76話
今までの謝罪を兼ねて、豪華ランチをご馳走になる雛山。
そこで鷹頭が何故、自分を虐めていたのか理由を知ることになる。
76
双葉広告代理店
社員食堂
「実は、愛野さんから言われたんだ。雛山にちゃんと謝罪しろって・・・」
昼食休憩。
社員食堂で、鷹頭と2人席につく雛山。
鷹頭が奢ってくれた豪華ランチに舌鼓していた雛山は、鷹頭の言葉に「んぬぅ!?」と声にならない唸り声をあげる。
僕の涙かえしてよ!と続けたかったが、口の中のエビフライが飛び出そうなのでぐっと堪える。
「だけど、百舌鳥さんに言ったのは俺の意思だから。それに雛山が泣いたの見たら、本当に今まで酷いことしたなって・・・」
雛山はもぐもぐと口を動かしながら、そういう事かと納得した。
明が鷹頭の唇を奪ってから、虐めはなくなっていた。
だから何故今頃?と不思議に思っていたのだ。
だけど・・・・いつ、明にそう言われたのか・・・・知らない所で2人は会っていたのか・・・その事は白田は知っているのだろうか?
それに、何故自分は虐められていたのかも疑問に思う。
鷹頭が明に告白をしたと言うことは、自分と同じ【ゲイ】ではないのだろうか。
以前、桃が同属嫌悪ではないかと言っていた。
【ゲイ】である自分を認めたくなくて、同属である雛山に過剰に反応していた・・・・あり得ない話ではない。
「・・・鷹頭は、僕と一緒なの?それを認めたくなくて・・・イジメた?」
口の中を空にした雛山は、思い切って聞いてみた。
「違う」
「?違うの?じゃ〜〜何で?僕の事が普通じゃないって思ったから?」
「・・・・・・・」
顔を曇らせて黙る鷹頭。
その無言が、その通りなんだと思った矢先に彼は口を開いた。
「普通じゃないのは、俺なんだ」
「・・・?どういう事か聞いてもいい?」
「俺、誰も好きになれないんだ・・・・・」
あれ?なら明に告白したのは?と首を捻るも、ここは黙って彼の言葉を聞くことにした。
「おかしいなと思ったのは、高校の時・・・・・ダチに彼女が出来て、フリーの奴らも異性を意識し始めた。だけど俺は何も感じないんだ。ダチが楽しそうに話す恋愛話や下ネタについて行けなくて『興味ない』って正直に言えば『大人ぶってる』『カッコつけてる』で済まされる。だけど本当に、理解出来ないんだ・・・人を好きになるって・・・。大学に入って試しに付き合ってみたけど、彼女に興味も無いから相手の事を知りたいとも思わないし、彼女と居るより友人達や自分1人の時間の方が楽しくてさ・・・・それで、いざそういう行為になった時、気持ち悪くてその場で吐いて・・・・結局その子とそれっきり・・・」
「・・・・・・・・」
「何故、女と恋愛しなくちゃならないのか、何故結婚して家庭を築かないといけないのか・・・未だに理解できない。皆が【普通】だと思ってることが、俺には出来ないんだ。そんな時、この会社で雛山と出会って・・・・俺と同じなんだと思ったんだ」
「え?僕?」
「デザイン部の紅鶴さん。全く興味なかっだろう?」
デザイン部では少ないながらも女性は居る。
違うチームなので頻繁には話さないが、派手な見た目の紅鶴という女性が居た。
身に着ける服装も露出が多く、生足を常に顕にし胸の谷間も惜しげに見せびらかしている。
デザイン部内の男性は、見せてもらえるなら遠慮なくの精神で彼女に視線を向ける。
一応、上司からは仕事に相応しい服装をと注意はしているようだが・・・その上司も「けしからん」と言いながら・・・・・男の本能には抗えていない。
「紅鶴さんが近くに居ようが、我関せずだったから・・・・俺と一緒だと思ったんだ。同じ人が居るなら、俺はおかしくないんだと思ったら、気が楽になった」
「ううう・・・なんかごめん」
「そんなの、勝手に俺が勘違いしてただけだし。・・・・・・お前が男にしか視線を向けなかった時に、ようやく気付いて・・・・これも勝手だけど、裏切られた気がしたんだ。異性じゃなくて同性でも意識しているやつが居るのに、何も感じない俺はもっともっと異常なんだって・・・・普通じゃないんだって思った。世の中の常識が理不尽だと感じて、関係ない雛山に当たってた」
鷹頭も色々と悩んでいた。
【ゲイ】である事は、世の中に受け入れられつつあるが、それでも異常だと思ってる人も多い。
なら、人を好きになる事自体が出来ない彼は・・・・何なんだろう。
恋愛、結婚は人の人生の中で組み込まれているシステム。
今や結婚しない人は増えてきているが、恋愛結婚システムを正常と思っている人からの圧力は必ずある。
だがここで、先程の疑問がまた浮かぶ。
明の事だ。
「明さんは?好きだったんだよね?」
「・・・・・愛野さんには、刷り込みだって言われた」
「刷り込み・・・雛が最初に見た者を親だと思う、アレ?」
雛山の疑問に、コクンとうなずく。
「それか吊り橋効果か・・・って」
鷹頭のそこ言葉に、雛山は何となく明が言わんとしている事が解った気がした。
雛山と資料室に居た時、鷹頭にとっては会社の人間に見られたくない場面だった。
それも取引先の相手に見られ、絶体絶命な状態。
それに営業モードではない明に殴られる勢いで近寄られ、パニック状態。
更に殴られる代わりに、唇を奪われ口内を好き勝手に犯され・・・・頭の中は真っ白。
気持ち悪いとか感じる余裕すら、なかったのかもしれない。
「愛野さんとなら・・・・恋愛出来るのかもしれないって思ったんだ。この人を逃したら、もう二度人を好きにならないかもって・・・・」
性癖に悩んでいた自分と、誰も愛せずに悩んでいた鷹頭。
何だ・・・一緒なんだ・・・と鷹頭を自分と重ねてみてしまう。
雛山と違うのは、彼には友人は多い。
だがきっと高校の時の理解できない友人の言葉に傷つき、その事を隠して付き合っているのだと想像出来る。
雛山には同年代の友人は居ないが、反対に自分の事を理解して側に居てくれる人達がいる。
その分、人に寄り添えるぐらいは余裕は出来た。
明や白田、雅や由美、フスカルの皆に支えられて今の自分が居る。
今度は自分が誰かに寄り添い、支えになれたら・・・・・・・・・と、鷹頭を見てそう思えた。
77へ続く
長くなるので一度切ります。
2人の話は続きます。
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