第33話

虐めを食い止めるべく、明は鷹頭に仕掛ける。

それを見た白田は・・・・


33



双葉広告代理店



資料室内で陰険な虐め。

鷹頭から罵声を浴びせられ体を突き放されたのか、大きな棚の前で尻もちを付いている雛山。

彼の周りには、棚から落ちた資料類が散乱していた。

今回は勇気を振り絞って反抗したのだろう、それで鷹頭も相当頭にきていたようだ。

だが明の登場で、資料室内の空気は凍りついた。

鷹頭の顔は引きつり、思考が停止している。

そんな中、無表情の明がツカツカと鷹頭に歩み寄ってくる。

壁に背がぶち当たるまで反射的に後退する鷹頭に、バン!と明は右手を壁に打ち付ける。

壁ドン状態に「ひっ」と鷹頭の口から漏れる。

明の方が身長が高く上から凄まれる整った顔に、恐怖で全身が強ばる。


「明さん、駄目っ」


殴るのではないかと、雛山は明の名を呼ぶ。

だが明が取った行動に、雛山は目を見開き口をあんぐりと開く。

そして遅れて部屋へ入って来た白田も、2人の光景にビシリと効果音がつきそうに石化する。

明は左手で鷹頭の後頭部を掴むと上を向かせて、深く口付けていた。

逃げようとする鷹頭の体を壁に押し付け、尚も顔の角度を変えてキスをする明。

状況を把握した雛山は、「あわわわわ」と絵に描いたような慌てぶりを見せつつも顔が真っ赤になる。

静まり返った資料室内には、2人の口付けから漏れる水音が生々しく響く。

時折聞こえる、鷹頭の悲鳴と言うより鼻に掛かったような声に、雛山は咄嗟に耳を塞ぐ。

そして白田の反応が気になり、そ〜〜と男に視線を向ける。

未だ固まっている・・・・・・・時間が止まったように・・・ビクリとも動かない。

時間にして1、2分程経った頃、明は鷹頭を開放した。

明の濃厚なベロチューに腰を抜かした鷹頭は、壁に背を預けながらズルズルとその場にへたり込む。

顔は真っ赤になり、口から唾液がたれている。


「へぇ〜〜、男にキスされて勃ってるじゃん」


明に見下されそう言われた鷹頭は、自分の股間に視線を向ける。

ズボン越しにハッキリと解る勃起したジュニアに、慌てて股を閉じて隠そうとする。

そんな青年に、身をかがめる明。


「お前も、これで立派なホモだな」


鷹頭の耳元でニヤリと笑ってそう口にする。


「う・・・うう・・・うわ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」


鷹頭は四つん這いになりながらもその場から移動し、何とか立ち上がると叫びながら資料室の外へと飛び出した。


「ピヨ山大丈夫か?」


「大丈夫で・・・・明さん・・・今のって・・・」


「あ?平和的解決だろ?つかトイレどこ?口濯ぎたいんだけど・・・」


さっきの光景が衝撃的過ぎて、未だ動けない雛山。

明は雛山に手をかそうと近寄るが、我に返った白田がズカズカと明に近づき腕を掴む。


「あ!?ちょっ」


そしてそのまま、明を引っ張って資料室から出ていった。

一人取り残された雛山はポカンとし「えぇ〜・・・・」言葉にならない声を発した。



******:



バタン!

男子トイレの扉が閉まる。

小便器3つに個室が1つのトイレ内は、先客は居ないようだ。

白田は明の腕を掴み、同じ階にあったトイレへ直行した。

そして室内に入った途端、正面にあった洗面所の鏡に映った自分の顔が視界に入った。


「別にそんな腕引っ張って、連れて来る事な・・・」


トイレに引っ張り込まれた明は、腕を強く掴んでいる男に文句を言う。

だが言い終える前に、振り返った白田に抱きしめられ言葉を止める。


「な・・・」


「ごめん・・・・今、俺ひどい顔してる・・・・」


鷹頭を黙らせようと明が取った行動は、心臓がえぐれるほどの痛みを感じた。

怒りと嫉妬で頭がどうにかなりそうな中、トイレに入れば・・・・生まれて初めて見た酷い自分の表情に、一気に頭が冷めた。


「何だよ・・・そんなにキモかったのかよ。オレだって好き好んでやったわけじゃね〜よ。暴力振るうより、あれの方が効果あるだろうが」


男同士のキスを見せて、気分を悪くさせたと誤解している明。

ギュッと明を抱きしめる腕に力が籠もる。


「なぁ〜口濯がせてくれよ。あいつ虫歯菌持ってたらやばいだろうが」


明の物言いに、クスリと笑う白田。

だが気分が安らいだ訳ではない、さっきより落ち着いたとは言え未だ胸の中は嫉妬と怒りがくすぶったままだ。

白田は少し体を離し、明の顔を見る。


「口濯いだだけで、虫歯菌は消えないと思うけど」


「気分だ気分。無理やり生牡蠣食わされた気分なんだよ」


牡蠣が嫌いなのか、顔を思いっきり顰める明。

白田は彼の背中に回していた手を放し開放する。

自由になった明は、そのまま洗面所に向かい蛇口をひねる。

そして水道水が出ている場所に口を寄せて、口を濯ぎ始める。

そんな彼の背中をじっと見つめる。

ノンケの男なら普通の反応だ。

脅しを掛けるつもりでやる行為ではないが、あそこで殴っていれば相手が騒ぎ大事になる事がある。

だが鷹頭を辱め、本人が嫌っていた人種に仕立てれば羞恥心から口外する事もないだろう。

・・・・だからって明が犠牲を払ってする必要がない気がする・・・。

勿論自分が・・とは思わない・・・明が相手ならともかく、好きでもない男となんてしたくない。


「はぁ・・・帰る途中に歯磨きセット買うか・・・」


「そんなに気持ち悪かった?」


濡れた口を手の甲で拭う明。

そんな相手を鏡越しに見ながら、問いかける白田。


「当たり前だろう、オレはそっちの気はない」


振り返らずに、鏡の中の白田に視線をむけたまま答える。


「・・・・・俺でも?」


「はぁ?」


明は訝しげな表情で振り返る。

自分でも何訊いてるんだと思う。


「俺は・・・明なら・・・」


こうなったら言ってしまおうか・・・

もう、さっきみたいな思いはしたくない。

白田は一歩一歩と距離を詰める。

そして彼の前で立ち止まると、少し困惑している彼の色素の薄い瞳を見つめる。


「俺は・・・明のこ」


ガチャっ


「あれ?白田君・・・まだお見送り終わってなかったんだね」


ここは男子トイレ。

誰が入ってきてもおかしくない。

雀野が悪いわけではない。

だがこの時ばかりは、自分の上司に殺気を抱いてしまった。


「トイレまで案内してもらったんです」


白田の体を押しのけて、雀野に営業モードで答える明。


「そうかい」


「あっ・・・次あるんだった。白田さん見送りいいです、急ぎで行きますので。それじゃ雀野さん、今度こそ失礼します」


明は会釈だけはキッチリとしてから、慌てた様子でトイレから出ていった。

結局想いは伝えられなかった。

だがよく考えれば、トイレの中で告白なんて・・・・気分の良いものじゃない。

それに鷹頭の出来事の後、勢いで言ってしまうものでもない。

大切にしたい想いの割には、安っぽくなりそうだった告白に思わずフッと笑いが漏れる。

洗面に両手をついて笑っている白田に、雀野は不気味な物を見る目で見ていた。



34へ続く

トイレの下りを、何度も書き直してました。

白田がかなり強引になって修羅場化してたので、重くなりすぎないようにと3回書き直したかな。

今後の展開を考えているので、まだ告白はさせません!

焦らしてすみません。変わりに記念作品に少しでも甘いものを書かせてもらいます。

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