第27話

皆にお膳立てされて、2人きりにされた白田と明。

無事に仲直りできるのか・・・


27



愛野宅

居間



「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


数分前まで賑やかだった場所が、今ではお通夜状態。

暗い空気を部屋に充満させているのは、明と白田。

そしてこの2人以外、この部屋には居ない。


お片付けしますねぇ〜と席を立った由美は、雛山を連れて出たがその後太郎を呼びに来て3人不在。

それから、今もそのままにしている雅の部屋が見たいと言い出した桃は、雅と一緒に出ていった。

その後は・・・ご覧の通り。

無言で冷めたコーヒーをすする白田と、テーブルで頬杖ついてスマホを弄ってる明。


「・・・・くっ・・・しょんべん」


他の人間が居ればまだ耐えられた。

だが、2人きりとなると流石の明も我慢出来ない。

スクッと立ち上がると、そのまま居間の外を出て台所がある右に曲がる。

が、そこには仁王立ちしている由美。

廊下を遮るようにど真ん中に立っている。


「・・・・・何」


立ち止まって訝しげに由美を見ると、「戻れ」と口パクで伝え手でシッシッと追い払う素振りをされる。

明はチッと舌打ちすると、体をクルンと反転させ自室に行こうとする。

だが逆の廊下にも、雅の姿が。

腕組で壁により掛かり、片足で廊下を遮るように向かえの壁に足の裏をつけている。


「・・・・何なんだよ、お前ら」


「桜庭さん、送りましたよ」


背後から聞こえたセリフに首を捻って背後を見れば、台所の入り口で立っている青年。

手にスマホを手にしている雛山に、由美は「でかした」と青年に親指をたてて見せている。


「おわ!?」


由美と雛山に気を取られていた明は、突然左手と右肩を掴まれた。

そしてそのまま居間へと押し込まれ、バタンと閉じられる戸襖。


「仲直りするまで、出ちゃだめよぉ〜〜〜」


「おいっ!」


明が戸襖を開けようとするが、開かない。

鍵など付いていない事から、どうやらつっかえ棒をされたようだ。


「もう何なんだよっ」


皆が皆、グルになってやっている事にむかっ腹が立つ。

右手で拳を作り、目の前の戸襖を殴ってやろうとする明。

すると戸襖に明より大きな影が映り込み、明は手を止める。

背後に立つ人の気配。

そして背中から、包み込まれる感触。

白田から後ろから抱きつかれている状況に、明の体はピシリと硬直する。

今まで散々他人行儀な態度を取っておいて、何故今頃・・・

謎だらけの男の行動に、明の脳内も混乱する。

温かい人肌と、男の諄くない香水の香りに包まれ、故か心の奥底でホッとして自分が居る。

こんなに自分を振り回し、心をかき乱され腹立たしいのに・・・・男の腕を振り払えない。



******


数分前



「・・・・くっ・・・しょんべん」


気だるそうにスマホを触っていた明が、席から立つ。

居間から出ていく背中を見つめて、この場の空気に我慢できずに抜け出すのだろうと思った。

仕方がない・・・全て自分が悪い。

もっと自然に振る舞おうと思っていたのに・・・・その場の皆に気を使わせるぐらいに不自然になってしまった。

この場に来なけけりゃ良かったと、今更ながら後悔する。

それなら明と恋人の女性の事を目の当たりし、ズキズキと胸に痛みを感じずに済んだのに。

白田は「はぁ」と重いため息をつく。

そんな折、ピコンとスマホの通知が鳴る。

今は誰もいないのだから、スマホを見てもいいだろうと白田はスマホを取り出して、送られてきたメッセージを目にする。


『明さんと日富美さんはただの長馴染みです。恋人じゃないそうです。それに、白田さんからLINEが来なく無くなってから、LINEの通知が来るたびに高速で確認するようになったらしいですよ』


雛山からのLINEメッセージだった。

そして廊下の騒がしさに、スマホから視線を上げる。

桃が明を羽交い締めし居間に押し込むと、バタンと戸襖を閉めた。


「仲直りするまで、出ちゃだめよぉ〜〜〜」


「おいっ!」


閉められた扉を必死に開けようとする明だったが、戸襖はビクリともしない。

白田はスクッと立ち上がると、明の側に向かう。

そして自分よりも小さな体を、ぎゅっと抱きしめる。

頭で考えるよりも、体が勝手に動いた。

雛山からのメッセージで、あの女性が恋人では無いと知った。

それだけでも充分だったが、LINEのくだりは胸にこみ上げるものがあった。

少しでも自分の事を気にしてくれていた事に、愛しさが湧き上がる。

振りほどかれると思っていた抱擁。

だが、予想と違い明は何の反応も返さない。

そんな相手に「好きだよ」と言ってしまいそうになる口をギュッと噛む。

明は多少なりとも気を許してくれているが、恋心を持っている訳ではないと解ってる。

ゲイを容認しているが、明はノンケ。

今気持ちを伝えても、応えてくれる以前に避けられるかもしれない。

前回の失敗を繰り返さないように、ちょっとずつ明の心に触れていきたい。

少しでも好きになってくれるように・・・・・



******


愛野宅

台所兼ダイニング



「どんな様子?」


ダイニングに入ってきた雛山に、様子を聞く由美。

手は今日使用した食器を洗っている。


「怖いくらいに無音です」


締めた居間の扉越しから中の様子を伺っていた雛山は、何もないと首を降る。


「これだけお膳立てして、仲直りしなかったらもう駄目よ」


由美の隣りに立ち、洗った食器をフキンで拭いている桃。


「仕事中イライラしっぱなしで、大した売上もあげてね〜しなあいつ」


ダイニングテーブルに座り、みかんを食べている雅。


「雅君、明君にあまりお酒飲ませちゃ駄目だよ。家に帰ったら、玄関で酔い潰れてる時あるんだから」


雅の正面に座り、湯気が立つお茶を飲んでいる太郎。


「え!?明さんって、お酒強いんじゃないですか?いつも水みたいにガバガバ飲んでますよ」


「あははは、外ではね。気合で酔を抑え込んでるんだって。雛山君、ここに座りなよ」


台所の出入り口に突っ立ってる雛山に、隣りの席の椅子を引いてあげる太郎。

それに嬉しそうに、いそいそと太郎の隣りに着席する。


「僕じゃ明君を抱えて2階まで運べないし、困るんだよ」


「そのまま朝まで放置してても大丈夫だって、馬鹿は風邪ひかねぇ〜し」


そう言いながら、みかんを雛山の前にポンとおく雅。


「有難う御座います」とみかんを受け取り、皮を剥く雛山。

そして何気に壁に備えている、壁掛け棚に視線を向ける。


「うわぁぁこれ、明さんですか!?」


みかんを手にしたまま、思わず立ち上がり飾られている写真に近づく雛山。


「小学校の入学式の時だよ」


「うわわぁぁぁ、めっちゃ美少女。お母さんにそっくりなんですね」


「うんうん、翔子さんにそっくりの美人さんでしょ?」


「えぇぇ私も見たい〜〜〜〜〜きゃぁぁぁ〜〜何このお人形さんみたいな女の子〜〜」


食器を拭く手を止めて雛山の隣にやってきた、桃。

写真を見るなり、黄色い声を発する。

雛山と桃が、キャッキャウフフしながら写真の前に居るのを、嬉しそうに見ている太郎。


「今日は本当に楽しかったなぁ。うちがこんな賑やかになるなんて、いつぶりだろうね。明が小学校4年の時に、一年間住んでた時以来かな。お父さんもお母さんも翔子も居たから、いつも賑やかだったなぁ」


「太郎さん、一年に一度と言わず、もっとやりましょうよ。皆持ち寄りで」


「あぁ〜〜それいい考え〜〜、私も実家に帰れないから、こうやって集まるの凄く懐かしくて嬉しかったのぉ〜」


由美の提案に、桃もテンション高く賛同する。


「僕も凄く楽しかったです。また来たいな・・・」


「まぁ広い家に男2人だけで寂しいから、良いんじゃないか?」


控え目に言いながらも、期待大の視線を太郎に送る雛山。

雅も最後の一房を口に放り居れ、ニヤッと笑う。


「うんうん。またしようか」


皆の言葉に、嬉しそうにクシャと皺を寄せて笑う太郎。

楽しい時間はあっと言う間に過ぎた。

ぎこちない2人が居たが、次回開催される時はきっと皆が笑顔で集まれるだろう。

太郎は壁棚に飾られた写真に視線を向けながら、うんうんと微笑んでいる女性に向けてうなずいた。



28へ続く

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