第4話 何をすればいいのでしょう?
繰り返し見た夢で、私は大切な記憶と引き換えにゲームに参加したことは分かっていた。前世は科学が進んだ世界で、移動するときは馬車ではなく電車や車を使う。男性も女性も関係なく働いていた。私はどんな仕事をしていたのだろう?
「ねぇ、今世の私の仕事は社交かしら?」
お茶を入れていたアニーは手を止めて静かに口を開いた。
「何かご興味があることでもあるのですか?」
「前世の私はどんな仕事をしていたのかしら?会社に行って働くのよ。どんなことをするのかしら」
「そうですね……。エリザベス様にとって必要なことなら思い出すかもしれません」
「思い出すの?記憶が対価だったんでしょう?」
「ゲームの参加券の対価を支払ったのです。後は思い出すも出さぬもエリザベス様次第です」
「そういうものなの?」
紅茶を入れると私の前へ差し出す。
「先日、サミュエル様からいただいたカモミールティーです」
「アニーは私とサミュエル様を結ばせようとしているの?」
「いいえ。」
「……なんで黙っていたの?」
「聞かれませんでしたから」
私がアニーに聞いたら答えたのだろうか?お兄様とつながっているんじゃないかと疑ってしまう。
「アニーは私の味方だと思っていたわ」
「もちろん」
珍しくほほ笑んだアニーは続ける。
「私がこのゲームの案内役を承ったことはご存じですよね。」
「えぇ。でもガイドだということしか知らない。今あなたが知っていることを教えて。」
◇◇◇
前世のお嬢様は事件に巻き込まれて亡くなったことは覚えていますか?お嬢様は亡くなられた後、神に導かれ次の世…エリザベス様として転生する予定でした。お嬢様は思い残したことがありました。それをどうしても諦められず神に願ったのです。
「思い残したことって何?」
それは私から申し上げることはできません。何かをキッカケに思い出すこともあるでしょうし、そのまま思い出すこともないかもしれません。願って思い出すかもしれませんし、思い出さないかもしれません。誰にもそれはわかりません。
「神様は私にチャンスをくれたの?」
通常はどんなに願ってもこの流れを変えることはできません。それが生命の流れだからです。でも、お嬢様は特別なのです。
神は長い時を生き、この生命の流れが止まってしまわないように動かし続けています。長い長い時を一人で繰り返し、魂を次の世に送り出します。魂は1つ1つ違いますが、魂を送り出すこの流れは川の流れのようなもので変化がありません。繰り返すこの流れに神は飽き飽きしていたのです。
そんな時にある魂から"乙女ゲーム"というものを知ったそうです。お嬢様の世界には疑似恋愛を楽しむゲームがありますよね?それをみてどんなものかと興味を持たれたのです。
だからお嬢様に提案したのです。
次の世でハッピーエンドを見せて欲しいと。
「私の人生はゲームのように決まっているということ?」
いいえ。たった一度の人生です、エリザベス様の未来は決まっていません。これから先、エリザベス様にはたくさんの選択肢があります。選んだ先はハッピーエンドもあるかもしれないですし、バッドエンドもあるかもしれません。エリザベス様が何もしなくてもハッピーエンドかもしれないですし、バットエンドかもしれませよね。同じ未来でも……。
「でも私は前世のことを知らない。覚えていないの」
そうですね。それもエリザベス様の選択です。あなたはリサではないエリザベス様なのだから、どうするかはエリザベス様が決めることです。
「ゲームに参加したことにならないのでは……?」
いいえ。あなたが考えたことも悩んだことも、あなたの人生そのものがゲームなのです。まるでドラマのようにみているような……といえばわかりますか?
「アニー、あなたはドラマを知っているの?」
えぇ。私もエリザベス様と同じような者です。
「あなたはプレイヤーじゃないの?」
違います。私は……神様と似たようなポジションでしょうか。エリザベス様主演のドラマを間近で拝見させていただいております。それが私の楽しみなのです。
伯爵令嬢はやりなおしたい!~記憶と引き換えに異世界人生ゲームに参加しました~ 千賀恵子 @chika_keiko
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