仮定と過程

 才能とはいつから備わるものなのだろう。そんなことを一日に何度も考えてしまう少年がいた。

 少年は「自分は天才ではないか」と半ば思っていたあの頃を懐かしんでいた。どんな強敵にも果敢に立ち向かい、無理難題に挑み成功する。人類が驚く発明をひょんなことから思いつき、多くの命を救う。謙虚でありながらも自身に満ち溢れる。皆から尊敬される。そんな大人になりたい。いや、なってしまうだろう。

 コンビニのバイト中、客のいない店内をぼんやり見ながら懐かしむと、なんとも哀しくなってくる。

 あの頃の俺よ、そうなるはずだった男はコンビニの店員として此処を見守る役をしているぞ。侮るなかれ。立派な仕事だ。時給860円のな。

 将来の夢はたしか。

「さっかーせんしゅ」

「かがくしゃ」

そうまさに天才の生業だ。

 あのころの俺は逆算していたんだ。なんの根拠もない仮定を通して。キラキラしている道しか見えない。何本にも別れた道の先にいるのはスポーツ選手、科学者、社長、料理人その他いろいろ。その全てが自分。

 その仮定はどうやら間違っていたらしい。こっちには根拠があるんだ。その根拠は今眼前に広がる商品棚が示している。俺は一度もこの場に立ちたいと思ったことはない。

 どの過程が間違いだったのだろう。辿った道を振り返る。戻れないことは分かっていても常に後ろを向いていたい。止まろうとしても前からぐっと引っ張られる。前に道はない。だから振り返る。

 振り返ってもしょうがない。理屈はわかっている。だから少し何かを始めてみたことがある。勉強をしよう。

 勉強を始めてみたらわかった。上に人が山ほど居ることに。じゃあ努力して下に蹴落とせる。そう仮定して山を登ろうと汗水垂らした。その汗水は自分の上から降り掛かってきたようで、重くのしかかり俺を潰した。潰されても登る力は残っていた。友人と登っていたから踏ん張れた。

 友人の一歩は次第に大きくなっていた。気づいたら距離がある。その距離を縮めようとしたが更に距離は離れるばかり。それでも進んだ。

 彼だけ合格をした。その時に俺は大きな落石を受けた。友人からの。友人は知らぬ顔で落としてきた。俺は山から落ちた。そう感じたが違かったらしい。俺は最初から山を登れてなどいなかったのだ。同じ山にすらいなかった。俺はそれを才能と呼んだ。

 それでも俺にも才能があったらしい。コンビニの店員を務められる才能だ。これが昔の俺が身勝手にしやがった仮定とその過程からの下底。

 そんな俺でも平等に未来へ進む義務があるらしい。大学生になった友人はその義務を権利と呼んだ。

 そっちからの景色は綺麗かい。友人に問いかけると、過程が悪くて割に合わないよ、と。上を向きながら言ったから羨ましく感じた。

 下も後ろも見ても意味がない。そんなこと昔から理解っていて、自分はもっとやれると仮定している友人は青年だった。

 それすら才能だと諦観した俺は少年だった。


 

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内情を人物に投げる。反響する。 T @OtonanoHuri

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