第18話「決着そして」
着替え終わってからすぐに、決闘は開始された。
まずは木剣を使っての打ち合い、次に素手での殴り合い、最終的には組みついてのレスリングの三本立て。
当然というべきだろうが、僕の三連勝に終わった。
レザードは文字通り手も足も出ず、決闘が終わる頃には地面に大の字になっていた。
「ハア……ハア……ハア……っ、う、嘘だろおい……っ?」
「何がですか」
「おまえ、本当に女か? いや、そういう意味じゃない。本気で性別を疑っているわけじゃないから脱がなくていい。というか少しは恥ずかしがれっ、おまえはっ」
顔を真っ赤にして慌てるレザード。
「……なんだ、面倒な」
僕は脱ぎかけたシャツを元に戻した。
「面倒とかそういうことではなく……ああもいいいっ。話が進まんっ」
レザードは頭をかきむしった。
「そうではなくだっ。筋力、反射、技術。重心の落ち着き方ひとつとっても尋常ではないぞと言ってるんだっ。俺のお付きの武技教官でもここまで強くないぞと。しかもおまえは俺と同じ年齢だろっ? いったいどうやってそこまで……」
「年齢のことはともかくとして……」
実は18歳だからな。
「一番は経験の差、でしょうね。僕は今まで何百人という人をころ……何百人という人たちと戦って来たので」
「何百っておまえ……」
あんぐりと口を開けるレザード。
「しかもそれは、練習ではありません。すべて本番。負ければすべてを失う戦いです」
「決闘をしてきた、ということか? あるいは新聞記事にあったような犯罪者を何人も相手にしてきた?」
「……そんなようなものです」
詳しい描写を避けつつ、僕はレザードと自分の違いを説明した。
「ただ闇雲に訓練をしても、さほど効果はありません。どこをどう打てば人体というのは壊れるものなのか、どれだけの力を入れればへし折れるものなのか、常に考えながら行うのです」
「……俺のやり方は、闇雲だと?」
「そうですね。自分の技に集中するあまり、相手のことが見えていない。試験で良い結果は得られるでしょうが、実戦では役に立たない」
「なるほど……」
自覚するところがあったのだろう、レザードは空を見上げ考え込むような表情になった。
「そこさえ変えれば、俺はおまえのように強くなれるか?」
「そこだけではありませんが、多少なりとも近づくことはできるでしょうね」
「……そうか」
レザードは痛みに堪えながら起き上がると、体中についた土を払った。
「ならばアリア嬢。
「………………
予想外の展開に、僕は面食らった。
なんだ急に、呼び方まで変えて。
「ええと……ちょっと意味が測りかねるのですが……?」
「君も言っていただろう、アリア嬢。俺はいずれ国を背負って立たねばならぬ身であり、国の希望だと。ならばこのまま、弱いままではいられまいよ」
「や、そうですが。すでに武技教官がいるのに……」
「その教えを受けた結果が
「や、そうですが。うーん……」
徹底的にぶちのめしたことが影響しているのだろうか、ちょっと前まであった尊大な感じが綺麗さっぱり消えている。
ゲーム内の彼とはまた違う、向上心があり責任感の強い、立派な若者みたいになっている。
もちろん、それ自体はいいことだ。
国のためにも、人民のためにもなる素晴らしい成長だ。
しかし、そもそもの問題として僕はこれ以上レザードに関わりたくないのだが……。
「うーん……」
どうしよう、事故に見せかけて殺すか?
いや、さすがにそれはまずいか。
何せこの場にはふたりしかいないわけで、前後の状況を考えると普通に僕が疑われるだろう。
ああ、ここにレイミアがいてくれれば上手い返しが出来るだろうに、あいにくと今はお昼寝中なのだ。
「なあ、アリア嬢。この通りだ」
レザードは僕の手を握ると、頭を下げて頼んで来た。
「頼む」
「うう……」
「この通りだ」
「うううぅー……」
断っても断っても、レザードは退こうとしない。
けっきょく僕は、レザードの熱意に押しきられてしまった。
しかし武技教官の人にも悪いので、王城には絶対出向かないこと。トレーニングはここでのみ行うことを約束させた。
そして……。
「呼び方も武技教官ではあまりに
ただ申し出を飲むのもあれなので、『任務』という
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