第17話「伐採場にて」

 僕がいつも使っているトレーニング場に案内すると、レザードは明らかに驚いた様子を見せた。

 きょろきょろと辺りを窺い、何かの間違いではないかといった表情を浮かべるが……。

 

「間違いではありませんよ。ここが目的地なのです、レザード殿下」


「……本当か? トレーニング場というからどんな施設があるのかと思ったら、これはただの伐採地ではないか……」


 レザードの言う通り、ここは伐採地だ。

 ストレイド家所有のものを木こりに貸し出し、木こりが切り出した木材を販売して貸し出し料金そして税金を払う仕組みとなっている。

 今は伐採直後の植樹も行っていない裸の状態で、トレーニングするにはとても都合がいい。


「伐採地でなんの問題がありますか。動き回るのに適度な空間があり、余った丸太を細工して作った練習用の人形もある。近くには丸太を流すための川があって水分補給にも困らないし、そもそも作業をしていない時は誰も訪れないから文句も出ない。まさに理想の環境でしょう」


「そうだが……そうかもしれんが……」


 練習用の人形(中国拳法の練習で使う木人のようなもの)を指でつつきながら、どうにも納得いかなげにレザード。

 

「っておまえ!? なぜ急に服を脱ぐっ!?」


 僕がチョッキを脱ぎ、シャツのボタンを外し始めると、レザードが目を手で隠しながら慌てたように叫んだ。


「さすがに乗馬服のままというわけにもいかないでしょう。レザード殿下もそのつもりで用意して来たのでは?」


 レザードが練習用の木剣の他に鞄をひとつ持って来ているのを、僕は見逃していない。

 きっとあの中には着替えなどが入っているはずだ。


「それはそうだが……や、その……だ、だからと言って男の目の前で……女が……っ」


「蛮族の姫君がすることです。驚くには値しないでしょう」


「くっ……?」


「それにね、僕は知っているんです。僕のような娘を気に入る物好きなどいるわけがないと。ならば多少肌を見せたところで問題は無い道理です」


 僕は気にせず、するすると服を脱いでいく。

 レザードは顔を真っ赤にすると、「バカな……こんなことあり得ない……」などとぶつぶつつぶやきながらも後ろを向いて着替え始めた。

 

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