第8話「レイミア・デア・ストレイド」
「ふんふんふーん♪」
レイミアの部屋は、いつでもたくさんの素敵なもので溢れている。
川底で光を放っていた伝説の聖者のコイン、森の中の大樹の根元に落ちていた星の石、春風に吹かれてやって来た妖精グアントリムの羽根。
探偵グッズとしての帽子に、探偵七つ道具が入っている肩掛けカバン。
素敵なものたちに囲まれていると、レイミアはいつでも楽しい気分になれる。
「ふんふんふふーん♪」
今日のレイミアは特にご機嫌だった。
いつでもニコニコ微笑みを絶やさない彼女だが、今日は特にニコニコだった。
「ねえお母さま、聞いてくれる?」
レイミアは、うず高く積み上げられた品々の中から一枚の写真立てを取り上げた。
そこに納められているのは、十年前に街の写真館で撮影されたという一枚の写真だ。
被写体は、二十代半ばといったところだろうひとりの女性。
銀色の長髪とアイスブルーの瞳が美しいその女性は、レイミアの産みの親だ。
神秘的で、どこか儚い雰囲気があって、森の深遠に住まうというエルフの末裔に違いないとレイミアは思っているのだが、父は笑うばかりで真実を教えてくれない。
「あのね? 今日レイミアはね? お姉さまとたくさんお話しをしたの。お姉さまの『ぜんせ』のこととかー、『おそーじ』が得意なこととかー……ってこれは言っちゃダメなんだったっ。秘密で、バラすと『組織』に狙われちゃうんだったっ」
ひゃあとばかりにレイミアは口元を抑え辺りを見回したが、部屋の中には当然誰もいない。
ごみ捨て場で拾った偉人の胸像が、こちらをじっと見ているのみだ。
「まあでも、お母さまならいいよね? だってお母さまだし、口もとびきり硬いんだもんね?」
えへへと照れ笑いすると、レイミアは多くのことを話した。
アリアの前世の記憶のこと、『友達』作りの『任務』のこと。
アリアがてんで不器用で、事あるごとに自分が手助けしなければいけないこと。
最近みんながアリアのことを見直し始めて、屋敷の中が緩やかな空気に包まれていること。
「お姉さま、最近優しいの。以前は眉毛をこおーんなにして怒って、怖い感じだったのに、最近全然違うの。むすっとしてるように見えるけど、全然違うの、優しいの」
母はレイミアを産んですぐに死んだ。
だからレイミアは母に会ったこともなければ、口だってきいたことがない。
だがある時、父が教えてくれた。
身重の母がつねづね口にしていたことを。
レイミアには優しいコに育って欲しいと、ポカポカと温かい、太陽のような人間になって欲しいと。
姉妹仲良くしてくれれば最高だとも。
「『いいぞ、レイミア探偵』なんて言ってね。見せたかったなあー……」
写真立てを胸に抱くと、レイミアは部屋中を踊り歩き、最終的にはベッドの上に横になった。
「ね、お母さま。明日はもっと楽しいことがあるからね。お姉さまともっと話して、もっと楽しいことするからね。そんでいっぱい笑って、そのことお母さまに教えてあげるからね? そしたらお母さまも、星の海にいたって寂しくないもんね? ふあ~あ……」
一日中遊んだツケが回ってきたのだろう、レイミアは急速な眠気に襲われた。
「とりあえず朝はあれして~……お昼はこれして~……お姉さまの笑顔の練習……は、まだ早いかなあ~……Zzzzz」
むにゃむにゃとひとりごちながら、今日も彼女は幸せそうに目を閉じた。
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