第30話「魔法互撃《マジックマッチ》」

 ミゲルとライネは最初闘技場に行ったが、すでに利用者がいたので運動場のあきスペースに移動した。


魔法互撃マジックマッチについて説明しよう。と言ってもルールは難しくない。交互に攻撃と防御をおこなって、相手の守りを崩せば1点! これだけだ」


 とライネは話す。


「攻撃魔法と防御魔法の撃ちあいって認識でいいですか?」


 ミゲルは一瞬考えて聞く。


「あってる! 飲み込み早いな!」


 ライネは快活に笑う。

 

「ところでお互いが一撃で相手の守りを崩しあったら、決着がつかないと思うんですけど」


 ミゲルは抱いた疑問をぶつける。


「その場合は引き分けだな。魔法決闘より安全性が高いものだから、そこはあきらめろってわけだ」


「なるほど」


 ライネの回答に彼はうなずく。

 安全を優先する結果、決着がつきにくくなるかもしれないというのはわかる。


「本当は先に魔力が切れたほうが負けになる上級ルールもあるんだけどな! 今日のところはなしにしよう」


「了解です」


 ミゲルはもう一度首を縦にふった。


(魔力切れで勝敗が決まるって何かつまんないしなぁ。いらないや)


 と彼は思う。

 どうせ魔法勝負をやるなら、決着は魔法でつけるのが一番カッコイイからだ。


「三点先取でかまわないか?」


「いいですよ」


 ミゲルは深く考えずに答える。


「先手と後手とどっちがいい?」

 

 と重ねてライネは問いかけた。


「どっちでもいいような」


 ミゲルは初めてだから、どちらが自分にメリットがあるのかもわからない。


「本来は先手のほうが有利なんだけどな~。私としてはお前の防御を見てみたいんだよなぁ。私の先手でいいか?」


 ライネは正直に打ち明けて、そのうえで彼に聞く。

 

「いいですよ。先輩の攻撃魔法をいろいろ見れるなら、俺にとってメリットですから」


 ミゲルは彼女の魔法を見たいがために、魔法互撃に応じたようなものだ。


「はは! お前ならそう言うか! じゃあ遠慮なく私からいこう」


 とライネは両手を打ち鳴らす。


「《荒ぶる水の化身よ、我がものとに来たれ。岩を砕く剛腕をもって、わが敵を駆逐せよ》【荒旋波/スパイラルウェーブ】」


 彼女が唱えたのは水属性の五位階魔法だった。


「《空をかける風よ、この地に集え。あらゆる災いを退ける盾となれ》【風障壁/ウインドウォール】」


 それをミゲルは六位階の風属性防御魔法で迎え撃つ。

 詠唱速度は彼のほうが速く、ゆえに魔法の発動でも上回った。


「!? 私が詠唱速度で完全に負けただと!?」


 驚きながらも彼女が放った荒波は止まることなく、ミゲルへと襲い掛かる。

 だが、彼の前に展開された風の障壁が見事に防ぎ切った。


「まさかビクともしないとは……魔法の詠唱速度だけじゃない。魔力でも相当だな、お前」


 ライネは感心する。


「やはりお前はすごい! だから魔法互撃に誘ったんだ」


 彼女は詠唱速度の差以外は特に驚いていなかった。


「ずいぶんと見込まれていたんですね。俺」


 ミゲルは意外さを隠さずに言う。


「そりゃ愚弟との勝負、まったく勝負になってなかったあれを見れば、お前がとんでもない逸材ってのは予想できてた。愚弟は馬鹿だが、無能でもないんだ」


 ライネはにやっと笑った。

 戦士が好敵手を見つけた獰猛な表情だった。


「それはうれしいですね」


 とミゲルは言う。

 

(評価されてるってことは、つまりそれだけ高レベルの魔法を見せてもらえるよな!)


 彼は大いに張り切る。


「じゃあ俺の番!」


 と彼が言ってから、ふたりは詠唱をはじめた。

 

「《黄昏を駆けるもの、夜の闇を愛でるもの、この地に来たりて禍々しい力をふるえ》【闇牙風/ダークロウ】」


「《大いなる水の力、この地にきゃあっ!」


 魔法の詠唱はミゲルのほうが格段に速く、ライネの魔法が完成するよりも先に彼女に着弾してしまう。


「あ……」


 ミゲルは意外と可愛らしいライネの悲鳴を聞き、しまったと反省する。

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