第29話「最初は誰でも覚えやすいもの」
「俺ってそんな変なことをしてますかね?」
とミゲルは不思議そうにライネに聞く。
「ああ……普通五位階魔法をひとつ覚えるのに、一か月くらいかかるものだぞ」
彼女は愕然としたまま答えてくれた。
「え、そうなんですか?」
ミゲルはおやっと思って聞き返す。
そんなにかかった記憶がないと首をひねる。
「……最初のうちは、七位階は比較的すぐに覚えられるものだが、すぐに限界は訪れる。私の家では記憶制限と呼んでいる」
「記憶制限、ですか」
だんだんと魔法が覚えづらくなるなら、たしかに制限がかかっているようなものだろう。
「カッコイイ表現ですね」
「その答えは予想してなかった……」
ミゲルの率直な言葉にライネは苦笑する。
「だが、お前の人となりをすこし理解できたかもしれん」
「俺はただの魔法好きですよ?」
彼女の言葉にミゲルは不思議そうに言った。
理解が必要なことは何もない、と彼は本気で思っている。
「はは、お前が思うのならそうなんだろう。お前の中ではな」
ライネは愉快そうに笑い出す。
(お、好きなセリフが出た)
ミゲルは内心すこし感動する。
実際に言われるところに遭遇し、しかも対象が自分なのは計算外の喜びだ。
「なんだ、急にニヤニヤして? 変な奴だな」
当然ライネに彼が喜ぶ理由がわからず、怪訝そうにする。
「いえ、個人的な問題です」
「なら気にしないが、女の顔を見てニヤニヤするのは変質者だから気をつけろ」
ライネは鼻を鳴らしただけで追及はしてこなかったが、かわりに辛らつな言葉を投げてきた。
「きついけど、女子はそうですね。男にしておきます」
男だったら犯罪者予備軍に間違われないだろう、とミゲルは安直に考える。
「いや、男相手にやっても無礼だから慎めよ!?」
ライネは思わず叫ぶ。
「あ、はい」
そういうものかとミゲルは素直にうなずいた。
「何か調子くるうな……」
ライネは頭に手を当ててゆっくり首を横にふる。
頭痛をこらえているような表情になっていた。
「大丈夫ですか?」
ミゲルは純粋に心配する。
「イラっとするけど、悪意がないのはわかるから難しいな」
ライネは舌打ちをこらえながら答えた。
悪意がゼロだったせいで怒りが空回りしてしまう。
「まあいい。お前は大した逸材だな。どうだ? 一つ私と手合わせをしてみないか?」
「え、いいんですか?」
彼女の提案にミゲルは食いつく。
上級生とは簡単に試合ができないと思っていたのだから、逃がさない手はないという気持ちが強い。
「やはりお前は変わっているな」
とライネは微笑む。
「私相手だとほとんどの男は尻込みするのに。勇敢なのか、それとも怖いもの知らずなだけか」
「たぶん後者です」
ミゲルが言うと彼女は上機嫌な笑い声をたてる。
「自分で言うのか! まあお前らしいと思ってしまった私の負けかな」
「はぁ……?」
勝った負けたはどこから来たのだろうとミゲルは思う。
このふたり、会話が成立しているようで微妙にかみ合っていない。
幸か不幸か、どちらもそのことに気づいていなかった。
「まあいい。魔法決闘は無理だが、
「何ですか、それ?」
ライネの発言にミゲルは首をひねる。
「ああ、転入したての一年なら知らないよな。はじめる前に説明してやる。いまは場所取りのために移動しよう」
「わかりました」
ミゲルは素直にうなずき、彼女のあとをついていく。
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