第27話「他の魔法も」

「何か離れたところで騒がしいな?」

 

 ミゲルはふと気になって周囲を見回す。

 視線が全部自分に集まっていることに気づいて、


「俺が転入生だから? いや、地属性がレアって話だからか」


 と見当外れな考えにたどり着く。

 彼は馬鹿ではないにせよかなり鈍い。


 自分がいかに目立つ存在なのかということも、目立つ理由についても考えようとすらしなかった。


「他の魔法も練習しておくか。全部できたらクロエに教えられるもんな」


 というのは彼が親切だからではない。


「クロエが全部覚えたら、他の地属性魔法だってきっと教えてもらえるぞ」


 と言って頬をだらしなくゆるませる。

 こちらこそが彼の本音だった。


「考えてみるといきなりレアな地属性を覚えるチャンスがあったのは、かなりラッキーだったわけだ」


 案外、ミゲルとしての人生は運が悪くないかもしれないと思う。

 

「クロエに礼を言おう」


 そう独り言を言ったところで、彼は珍しく首をひねる。


「礼を言うだけでいいのかな? 何かおみやげでも渡したほうがいいんだろうか?」


 両親からそのあたりの機微について学んだ記憶はない。

 彼らががんばったところでミゲルは右から左に聞き流していただろう。


 その点の自覚がない彼はまあいいかと思った。

 魔法ふたつを覚えてから、彼は寮へと戻っていく。


 女子寮の前まで来てクロエの姿が見えないことにしまったと嘆いた。


「そうだよな。寮の前で待っているはずがないよな」


 約束していたならともかく、何にも言っていなかったのだ。

 クロエはクロエでやりたいことをやって放課後を過ごしているだろう。


「どうしよっかなー」


 ミゲルはそう言ったがすぐにアイデアをひらめく。


「魔法図書館に行けばいいか。あそこならいろんな属性の魔法書があるんだから」


 昨日と違って今日は制服も学生証も持っているのだから、クロエなしでも入ることはできるだろう。


「借りられるだけ借りて、それ以外の本は読んで……いや、貸し出し中の本だってあるだろから……」


 ぶつぶつ言いながら図書館を目指す。


 どこに何があるのかろくに覚えていないミゲルも、魔法図書館の方角はばっちり理解していたので迷わなかった。


「二日連続の図書館……へへへ」


 すこし気持ち悪い笑みを浮かべてから彼は図書館内に入ったところで、ばったりとライネ・アロサールと再会する。


「おや、あんたはたしかミゲルだったっけ?」


 どうやら彼女はばっちり彼のことを覚えたようだった。


「あ、水属性のすごい人」


 対するミゲルは彼女の顔と魔法で覚えていることを、うっかり口にする。


「ふふん、まあいいだろう」


 ライネは失礼だと怒らず笑って許す。


「ここに来たのは初めて?」


「いえ、昨日クロエに連れてきてもらいました」


 ミゲルの問いに彼女は目を丸くする。


「そうなのか。愚弟の話だと今日からだったんだろう? 昨日やってきた段階で来るとは相当だな。感心なことだ」


 ライネは褒めた。


「??? 魔法を学ぶために来たんだから、当たり前なのでは???」


 ミゲルは本気で不思議がる。

 魔法学園で魔法を学ばなくていったいどうするというのだろう、と彼は思った。


「お前は大したものだな。愚弟に見習ってもらいたいものだ」

 

 とライネは言う。


「せっかくだし、私でよければ案内しようか?」


 そして彼女は善意で申し出る。


「本当ですか!? いろんな属性の五位階魔法を見て回りたいんですけど!」


「一年生にはまだ早いと言いたいけれど、お前なら覚えてしまいそうだな」


 ミゲルの無謀とも思われる願いを彼女は笑わずい聞き入れてくれた。


「ただし、一度に借りられるのは二冊までだからな?」


「ああ、制限はあるんですね」


 そこはここでも同じかとミゲルは納得する。

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