第8話「魔法を学べるなら何でもいい」
数年の月日が流れたある日の朝、ミゲルは父にお願いをする。
「ねえ、父さん。俺、そろそろ外に行ってみたいよ。魔法を学ぶ学園だってあるんでしょう?」
「そういうことは覚えてるんだな……」
ゲイルは深々とため息をついた。
「いいんじゃない?」
と母が何と賛成に回る。
「ミル?」
怪訝そうな夫に向かって彼女は言った。
「いつまでもこの子を手元に置いておけないでしょう? それに家にいるよりは、魔法アカデミーのほうがまだ安全じゃないかしら?」
「それはそうかもしれないな。多くの人がいるし、猛者も多い」
ゲイルはぶつぶつと言って、自分を納得させる。
「わかった。じゃあ俺の恩師に頼んでみるよ。王都の魔法アカデミーは推薦者がいないと、受験できないからな。あの人なら顔が利くから大丈夫だろう」
と言った。
「やったー! 学校だー!」
ミゲルは大いにはしゃぎ、父に注意される。
「まだ決まってないからな? 恩師がダメだと言ったら他の学校になるんだぞ?」
彼は念を押すように言われた。
「うん、大丈夫」
彼は心外だなという顔をしながらうなずき、そしてようやく疑問を抱く。
「他の学校?」
「ああ。王都の魔法アカデミーが国内最高峰なんだが、当然入学も卒業も一番難しい場所だ。他にもいくつか魔法を学べる学園があるんだよ」
ゲイルはこいつらしいと苦笑しながら答えてくれる。
「そっか! 新しい魔法を学べるなら何でもいいや」
とミゲルはにっこりした。
どうせなら一番難しい場所に──とならないのが彼らしいところだった。
両親からすれば不思議なのだが、魔法アカデミーに行きたいと言って譲らなくなっても困る。
触れずにおこうとふたりは目くばせし合った。
父ゲイルが恩師に手紙を出して十日後、五十代の灰褐色の髪の男性が訪ねてくる。
彼こそがゲイルの恩師だった。
「お久しぶりです、ラーン先生」
「久しぶりだな。ようやく手紙をよこしたかと思えば、いきなり息子の口利きとはな」
じろりとラーンがにらむと、ゲイルは恐れ入って不義理を詫びる。
「実のところ息子のミゲルが相当な逸材のようでして、そちらに振り回されておりました」
「言い訳だといま決めつけるのはよそう。魔法アカデミーへの推薦をワシに依頼してきたのだからな。もっとも期待外れだった場合は、説教を覚悟しておけよ」
ラーンは重くて大きな岩のような口調で言った。
「うへえ」
学生時代を思い出し、ゲイルは情けない顔になる。
「それで、お前の子は?」
とラーンが聞いた時、ミゲルは母に連れられて彼の前に姿を見せた。
「初めまして、ゲイルの子ミゲルです」
相手は自分の紹介状を書いてくれる人ということで、ミゲルはていねいにあいさつをする。
「ほう……十二歳にしては礼がさまになっているな。魔法しか教えなかったわけでもないのか」
言葉づかいは大したことではないが、礼にぎこちなさがないのは大したものだとラーンは評価した。
「それは妻の役目でして」
ゲイルは恩師にウソをついても見抜かれると、正直に打ち明ける。
「まあいい。ミゲルと言ったね。君がかなり大きな魔力を持っていることはすでにわかるが、それだけで魔法アカデミーに推薦するのは難しい。わかるね?」
「はい。がんばります」
ミゲルは張り切って答えた。
(そりゃ国内最高峰なんだから、難しいに決まってるよ! つまり難しい魔法を使っても問題ないってことだよな!!)
彼はラーンなら自分の魔法を認めてくれて、もっと難しい魔法を教えてくれると期待したのである。
「うん? いずれにせよ、やる気があることはいいことだ」
ラーンはかすかに引っかかりを覚えた。
だが、さすがに初対面でミゲルの思考回路には気づけるはずもなく、優しく彼をはげます。
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