糸満@ディープ(仮)

@m89

あの時の回

 旧糸満警察署駐車場は無数の少年たちでいっぱいになっていた。おいてあるバイクの数に合わないくらいの少年たちが集まっている。まだまだ増え続けているが、港側から来るものと、沖水側からくるもので恰好が大きく違っていた。港側からくるものはカラフルで、沖水側はほとんど黒だった。

 

「そろそろですか?」

「もう少し待て」

「なぜですか?これ以上待つと、我々だけでは逆にやられてしまいます」

「なんでもいいからまて」


 強い口調で新人斎藤を止める。斎藤はしぶしぶいうことを聞いた。ベテラン金城は糸満署に来た時のことを思い出していた。今回のように市民から旧糸満署に大量の少年たちが集まってきている。というを情報が入いり、移動したばかりの西崎から糸満ロータリー近くにあった旧糸満署まで行った。町の中心にあったため集まる少年たちはいろいろな方向からやってきたが、今回と同じようにカラフルな服装と真っ黒な服装にわかられていた。まだ血の気が多かったため片っ端から少年たちを止めていた金城だったが、先輩巡査長大城に止められた。大城は静かに角に隠れた。金城は訳が解らないまま大城に続いた。 

 金城は大城の顔と少年たちを交互に見ていた。どちらの行動も見逃すことができなかった。大城はほとんど表情が変わらず、石のようだと金城は思った。少年たちは2チームに完全に分かれた状態になり、にらみ合っているように思われた。


「いいか金城、奴らをよく見ていろ。絶対に目を離すな」


 いわれなくてもそうしていた金城は、鬱陶しそうに大城を見た。

 そこには金城の知っている大城ではなく二倍くらい大きくなった大城がいた。金城は大城から自然と後ずさりしていた。本能的に金城は危険を察知した。

 少年たちのほうは少し数が減ったように思えた。いっぱいだったはずの旧糸満署の駐車場少しだけスペースができていた。

「金城!!!!!!」

 雷のような大城のバカでかい声が聞こえた瞬間、金城は宙に浮いていた。東シナ海と南シナ海がゆっくり確認できた。反対側の東風平や知念岬も確認できた。金城は身に危険が及ぶと脳内活の何かの物質が活発になりすべてがスローになる。と、昔、誰かに聞いたことをぼんやりと思い出していた。これは死に行くものの走馬灯じゃないけど、そのような感覚のものなのかと思った。真上に太陽を感じながら次第に体が地上へ向けて落下していくのを感じた。


 今日が最後か。


 金城は目を閉じた。まだった若かった金城は振り返るほどの人生がなかった。


 落下が止まった。落ちているという感覚はなかったが、風は感じていた。その風がやんだ。地面か海面に落ちたと金城は思った。痛みはないから即死だと判断した。

 

 

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