第4話 パワハラのH丸主任とヒステリック事務員

 この話は、私がパチンコ店の事務員をしていた時の男性の主任のお話です。

 彼は三十歳の独身、一人暮らしで恋人もいませんでしたが、そこそこ整っている容姿の方でした。

 しかし、とにかくパワハラが凄かったのです。

 新卒の男性社員がミスをした時に、三十分近く事務所内で罵声を浴びせたあげく、その後に

「ほら。『私は無能でした』って、その馬鹿面で言えよ。」

「私は、無能でした。」

「接客業の基本の笑顔が足りないんじゃないんですか?」

 新卒の男性社員は、笑顔を作り、

「私は、無能でした。」

「『私が、馬鹿で無能だからミスしました』……はい!」

「私が、馬鹿で無能だからミスしました!」

「ヤッベェ!こいつ笑顔でこんな事言ってやがる!」

と、H丸さんは爆笑していました。

 流石に店長が見兼ねて「H丸さん。これはパワハラだよ。君ももうミスの無いように。」と、仲裁に入ってくれました。

 しかし、H丸さんの悪業は続きます。

 

 後日、お店にテレビにも出ている世界的有名マジシャンが営業で来店して下さった時の話です。

 楽屋となる休憩所の監視カメラの電源は全てオフ。そして、彼等からOKサインが出るまでは休憩所付近立ち入り禁止となりました。

 しかし、なんとその日、店長と他の責任者の方はお休みで、店舗にはH丸さんと事務員の私と、フロアに新卒社員とアルバイトだけだったのです。

 厳重な警備、もちろん撮影は禁止です。しかし世界的マジシャン様は本当に気さくで素敵な方でした。

 手品のパフォーマンスが始まりました。

 主任であるH丸さんは、盗撮している人はいないか、さらにその間もフロアにゴト師や怪しい人物がいないかをモニターで確認していました。

 するとそこにカフェガールのアルバイトの女の子が営業中なのに普通に事務所に入ってきたのです。

 実は、このカフェガール。二十歳でかなり可愛いい気の強い系美人で、彼氏もいて同棲もしています。

 しかし、彼女は責任者がH丸さんしか事務所にいないタイミングで勤務中でも堂々と仕事をサボりにきている常習犯でした。

 この日も、マジシャンのパフォーマンスの影響でカフェの注文が入らず暇だから、と事務所にサボりに来てました。H丸さんも、彼女を叱るわけでもなく、むしろ完全に尻に敷かれ手の平で転がされている感じでした。

 二十歳の彼氏のいる女の子に尻に敷かれてる三十歳の独身男性って……。

 更に彼女は、「ねえねえ!モニターでマジシャン観たい!超特等席じゃね?」と、H丸さんに話し掛けました。

 H丸さんは「駄目だって!でも……そうだよなぁ!」と、彼女にデレデレでした。

 私は、またもや呆れて無の境地。

 電話対応や他の雑務もあり、事務所から席を外せなかったので、モニターを観ない様にしてました。

 すると、カフェガールが「モニターでさ、マジシャンの後ろとか手元ってズーム出来るの?」と、言うのです。

「出来るけど……。」

「タネとかめっちゃ見たい!」

「……確かに気になるかも!」


……乗るんかい!そこ乗っちゃうんかい!


 結局二人はキャイキャイしながらモニターを回しズームにしていました。

 私は、普通に仕事中ですし、マジシャンの方に失礼ですし、関わりたくないし、巻き込まれたくもなかったので、パソコン越しに資料ファイルをあえて立てて置き、完全にモニターが視界に入らない様に業務をしてました。

 どうやら結局どの角度からズームしてもタネは全くわからず本当に魔法の様だ、とパフォーマンスが終わるまで二人で騒いでいました。


 逆に「流石!世界的マジシャン!」と、私は感動しました。


 確かに男性ですから、若くて可愛くて美人なカフェガールにデレデしてしまうのは、百歩譲って仕方ないのかもしれません。


 しかし、彼の暴走はまだ続きます。


 実は、私が事務未経験にも関わらず採用され、且つ、大型店舗に配属されたのには理由がありました。

 まず、大型店舗なのでそこに配送された社員さんは出世コースとなる、つまり出来るけれどもサイコパス的な人間が多いんです。

 その為、一般社員や新卒やアルバイトだけでなく、もちろん事務員もメンタル崩壊して退職していく人が続出してました。

 その店舗の事務員もメンタルが崩壊し、彼氏に夜の営み中に中出しを懇願し、見事ご懐妊。

 その後、「妊娠したからあと一ヶ月で退職したい!」と、言い出し、そのタイミングで転職活動していた私は、職業適性検査や性格診断が他の応募者の中でも断トツの鋼のメンタルだったらしく、希望店舗ではなかった事もあり、中途採用だったのですが、新卒と同じお給料で優先採用され、その店舗に配属されたのです。 

 まあ、その前任の事務員さんも中々の方でした。  


 それが、ヒステリック事務員、女性の方です。

 

 その方は、本当にお綺麗な方でした。 

 しかし、ご妊娠されていた為か常に情緒不安定でヒステリックでした。  

 いきなり鼻歌を口ずさみだし、かと思えば、私に仕事を教えた後にネットでアイドルのニュースを見出したり。

 そして教えて頂いた仕事をメモしている私に「あやえるさん。見て!この記事やばくなーい?!」と、話しかけてくるのです。

 あと一ヶ月で退職するし、後任の私が決まったからなのかは知りませんが、かなり自由な方だな、と思いました。

 退職者あるあるですが、辞めると決めた人っていろんな意味で無敵になりますから。

 

 しかし毎日、いきなり「頭悪すぎ!容量悪すぎ!なんで事務未経験なのに私の後任なの?!あと一ヶ月で全ての業務を貴方に叩き込まなくちゃいけないのよ?!わかってるの?!」と、一時間に一回ヒステリックに事務所内に反響する勢いでヒステリックに叫ばれていました。

 私としては、「だって未経験だし、やる事はやってるし、いきなり何でも出来る人なんていないし。それこそ産まれたての赤ちゃんがいきなり立てないのと一緒。赤ちゃんだってハイハイとかして立てるようになるんだから。むしろお腹の中の赤ちゃんが心配なんですけど」と、考えていたので事務員さんの母子ともに健康で頂けるから、どうぞ心の底からヒステリック起こして下さい、という境地でした。


 だって、妊婦さんって自分だけの身体じゃないんですよ?ご本人が一番不安だと思うんです。

 むしろ鮭なら出産したら死んじゃうんですよ?

  

 その事務員さんに対しても、H丸さんは容赦ありませんでした。


 ある日、急にH丸さんが事務員さんにご年齢を伺い、

「え?三十歳なの?ババアじゃん!」

「ババアってなによ!H丸さん同い年じゃん!」

「いーや!ババアだね!女は三十歳過ぎたら皆ババアなんだよ!」

「はあ?!……ちょっとあやえるさん!なんでおんなじミスしてるの?!何百回言ったらわかるの?」


……すみません。入社してまだ一週間目です。 

これは……八つ当たりですかね?

 

 他の主任の方が、

「○○さん。あやえるさんはまだ入社して一週間目だから何百回は言ってないよ。」


 ツッコむところそこかーい!回数かーい!


「……三十回くらいかもぉ。」


 そんな言われてないし。

 そこに事務員さんも乗るんかーい。

 もう、煮るなり焼くなりヒステリックになるなり八つ当たりするなり好きにすればいいよ。   


 結局、そのヒステリック事務員さんは、私が入社して三週間目に仕事を全て引き継ぐ事なく出勤拒否しそのままご退職されました。


 彼女は退職後、「仕事ちゃんと引き継いだり教えて挙げられないまま辞めちゃってごめんね」と、店鋪に私宛に電話をしてきました。

 更には「ねぇねぇ。体重がね十キロも増えちゃったの!ヤバくなーい?どーしよー!」と、お電話も。


 ……食いつわりですかね?母子ともに健康そうで何よりです!


 話をH丸さんに戻します。


 そんなH丸さんと私は関わりたくなかったので仕事中は無口キャラを貫き通していました。


 しかし、彼は遂に私に絡んできたのです。


 それは私の定時三十分前に、いきなりH丸さんが私に話しかけてきました。


「あやえるさんって真面目だよね。黙黙といつも仕事しててさ。」

「業務量多いですし、私、容量悪いのでお仕事に集中しないと駄目なんです。」


……だからH丸さん。私に話しかけないで。


「実はさ、今度来るコンパニオンの衣装を一緒に探してほしいんだよね。」

「でもそれってH丸さんの企画ですよね?」   

「そうそう。なかなか良いの見付からなくてさ。イメージはね……。」


……手伝うとも何も言ってないのに。


 H丸さんに一方的にコンパニオンノ衣装イメージを説明され、仕方なくネットで私も一緒に探す事になりました。  

 定時で帰れればいいや、位に思っていたのです。


 しかしこの私の考えは甘かったのです。

 衣装を見つけても「俺のイメージと違う」と、ボツにされ、

「H丸さん、私、定時なのですが。」

「まだ衣装見つけられてないじゃん!主任の手伝いも発注も事務員の仕事でしょ?」


 そうなの?!   

 その後も定時を過ぎているのにも関わらず二時間も衣装探しに付き合わされました。


「H丸さん。あとはもう、ちょっとエッチな衣装しか無いのですが……。」

「エッチ?!」


 H丸さんは私のデスクに走ってきました。


「ヤッベェ!エっロいなあ!あやえるさんエッチー!」


 と、それはそれは物凄く嬉しそうにH丸は爆笑してました。


H丸さん……貴方って人はパワハラだけでなくて……これはセクハラですよ!

 

 私が子供だった頃、社会人とは三十歳とは“しっかりした大人”というイメージでした。


 しかし彼等に出会い、年下の自分の方が人として落ち着いてて常識的ではないか、と思いました。


 年齢なんて……  

 人生経験なんて…… 

 結局は記号でしかないんだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る