実録!あやえるのハラスメント総集編!

あやえる

第1話 女性マネージャーM

 これは私が以前、インストラクターとして務めていた職場の女性マネージャーの話です。


 初めての社会人。そこで私は彼女と出会いました。名前は、Mさんとしましょう。

 金髪のロングヘアで、見た目はかなり細身で、スタイルが良く、とてもお洒落な方でした。性格も素敵で、他のエリアマネージャーと違い、現場主義で各店舗を巡り、お客様からもMさんは人気がありました。

 他のエリアマネージャーは数値にとてもシビアでしたが、Mさんは

「数値に追われて仕事が楽しくなくなってしまったら、お客様にそれが伝わってしまう。本当の笑顔の先に数値はついてくると私は信じてるの。」と、話してくれました。

 なので、新規の方の成約がとれなくても「お客様に喜んでもらえた?」

「身体と向き合えてもらえたならそれでいいじゃない!」と、笑ってくれる方でした。

 私も、Mさんの様なインストラクターになりたい、と思っていました。


 しかし、彼女はたまに不思議な発言をしていました。


 Mさんの年齢は、当時三十六歳だったのですが、独身で実家暮らし。

 お洒落な方ですが、なんとお洋服屋さんで服を買った事が三十六年間、一回もないと言うのです。Mさん曰く、「お洋服ってブランドの展示会で買う物だと思ってたから」との事。

 チームの皆でお休みの日に水族館に遊びに行った時には、ペンギンを見て「あ!ペンペンさんがいるー!」と、はしゃいだり。

 彼氏は、なんと二十六歳のアクション俳優。

 

 そんなMさん、私が入社した時に「彼氏いるの?」と、聞いてきました。

 「はい。います。」と、伝えると、

 「そーなんだ。結婚も出産も順番だか、ね?」と、言ってきました。

 

 順番?結婚しているスタッフもいれば、彼氏すらいないスタッフもいるし、どういう事なのだろう?と、その時は意味がわかりませんでした。


 しかし、その後わかりました。

 同じチームの店舗が違うスタッフが彼氏との間に赤ちゃんを授かったのです。私は、その話を聞いて、とても嬉しくその子にLINEではなく、直接「おめでとう!」と、伝えたい、と思いました。


 チームの合同会議の日に事件は起こりました。

 会議会場に着くと、妊娠した女性スタッフが泣いていたのです。

 そして、会議の前にMさんが「○○さんから、皆に話があるって」と、言うのです。

 そして彼女の口から信じられない言葉が……。

 

「この度は、社会人としての自覚のない行動をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。臨月ギリギリまで頑張りますので宜しくお願いします。」

「社会人として何が駄目だったのかな?」

「店長よりも先に妊娠をしてしまいました。」

「だよね?授かっちゃったものは仕方ないけど、社会人として自覚なさすぎだよね?」

「本当にすみません。」

「違うでしょ?ちゃんと皆に、自分の口から『妊娠してごめんなさい』って謝りなさいよ。」

「……妊娠してごめんなさい。」


 私は、耳を疑いまさした。

 だって、お腹の中の赤ちゃんが聞いてるんですよ?

 確かにスタッフが抜ける事は、大変ですが、命を授かれる事はとても素晴らしく尊い事。


 その後、各店舗からのヘルプ申請の話などをされて、その会議は終わりました。

 私は、この魔女裁判の様な会議に耐えられず、Mさんや他のスタッフがいても気にせずに会議終わりに彼女に、

「妊娠おめでとう!身体だけ本当にご無理なさらないでくださいね!」

と、声を掛けました。彼女は泣いていました。


 しかし、その後私にもその矛先が向けられます。

 今度は私が、彼氏にプロポーズをされたのです。正直、結婚願望は無かったのですが彼と別れる理由もないのでプロポーズを受けました。そしていずれは、子供を授かるかもしれない、と考えました。

 Mさんに、結婚の報告とこれからの人生プランを相談しました。

 私は母子家庭だったので、もし子供が産まれたら学校から帰って来たら母親がいる環境に憧れていました。

 しかし、彼氏からは「結婚しても俺だけの稼ぎだとキツイから正社員で共働きを続けて欲しい」と、言われました。


 なので、Mさんには、近隣の店舗への異動と、もし子供を授かったら夕方帰宅出来る時短勤務制度は出来ないか相談しました。

 すると、「正社員はフルタイムが基本だし、アルバイトとかパート制もないから、ご家族にお願いできないの?」と、言われました。

 それが出来ないから相談したのに、と少し困りましたが、私はもし妊娠したらその間に事務の勉強等をして夕方に変えられる仕事へ転職するしかないかな、位に考えていました。


 そして、店舗を異動したのですが、更にそこで事件は続きます。

 まさかの異動先の店舗。私の母親と同じ位の年齢の女性スタッフとの二人体制だったのです。

 そして他のスタッフやお客様から「あのスタッフは長いけど、皆ある日いきなりいなくなっちゃうんだよね。」と、言われました。

 なのでお客様達から、「あやえるさんみたいなスタッフさんはじめて!今までのスタッフみたいにいなくならないよね?」と、ほぼ毎日の様に声を掛けられました。

 

 別の章で詳しくお話しますが、そのもうひとりのスタッフもなかなかの方でした。


 過労と精神的に追い詰められた私は、ある日朝起きたら声が出なくなったり、帰宅すると無意識に泣いていたり、無自覚にリストカットをする様になっていました。

 彼氏は助けてくれるわけでもなく、見て見ぬふり。誰にも相談できず、家でも職場でも追い詰められ、私は久々に会った友人や母から「目や表情がおかしい」と、気づかれ、病院へ行く様に説得され、メンタルクリニックへ行きました。

 

 案の定、先生からは「とりあえず仕事へはもう行ける状態でない」と、診断され、休職の必要があるという診断書を書いていただきました。

 母に診断結果を伝えたら「診断書一応コピー取っておいたほうがいいかも」と、言われました。

 そして電話でMさんに報告すると、「とりあえずヘルプ出しとくから明日○○店にいるからそこに来て」と、言われました。


 いや。だか、お医者さんから出勤停止って診断されたんですって。……Mさーん。 

 

 次の日、その店舗に行くと、「あやえるさんと働きたい!」「私、あやえるさんとお店作りたいんです!」と、私の事を物凄く慕ってくれていた他店のスタッフがいました。

 そして、私が到着すると彼女はとても嬉しそうに私に「自店に戻ります!」と、私に挨拶をして帰っていきました。

 私はフラフラしながらもMさんの所へ行き、診断書を渡しました。すると診断書を見たMさんは、

「あやえるもかぁ……。そうやって皆私を裏切るの?あやえる、今日ここまで来られたから元気じゃん!」

「いや、診断書をお渡しする為に。」

 するとMさんは診断書を自分のノートパソコンの下に入れて、

「前から店長もしくは店舗リーダーにあやえるにはなって欲しかったって、ずっと前から話してたよね?」

「それも、将来的に子供が授かったら厳しいので、とお断りしていたはずです。」

「でもね、さっき○○ちゃんには話したけれども、これからはあの店舗をあやえるがリーダーで○○ちゃんと運営してもらうから。」



 ……パードゥン?

 さっき?いや、昨日電話で、出勤出来ないって話したやないかーい!


「Mさん。あの昨日お電話でお話したと思うのですが、私、出勤出来る状態でないのですが。」

「うん。元気になるまで店舗に出なくていいから、毎日私の秘書として働いて店舗運営を一から勉強して、元気になったら現場復帰すればいいよ!」


 とても素敵な笑顔で言われたのと、フラフラのピークで状況が飲み込めなかった私は、その日は早退となり、次の日からMさんのいる店舗に行き、Mさんのお手伝いや店舗運営の勉強をしました。

 しかし、やはり身体が悲鳴を上げて、私は声が出なくなるだけでなく、身体が動かなくなってしまったのです。

 さすがにその時は、彼氏からマネージャーに連絡をしてもらい、なんとか休職させてもらう事が出来ました。

 しかしMさんからは、「皆、あやえるに失望している」と、言われました。


 ……え?追い打ちかける?そこ?


「Mさん。皆って誰ですか?他のスタッフの方からも結婚を喜んでもらえたりしましたし、『結婚式も楽しみ』って言われてたんです。」


 ……多分、この発言がMさんの逆鱗に触れ、地雷だったのでしょう。


「んー。社長とかかなぁ。」


と、その時Mさんは口籠っていました。


 その後、退職する時に社長には大変お世話になっていたので直接お電話したのですが、社長からは「あやえるさん休職してたの?!Mさんからは何も聞いてなかったしそんな事言ってたの?!」と、物凄く驚かれました。


 その後、休職期間を確認する為に人事部へ連絡した所、「休職って戻ってこられる見込みのある人にしか出せないんだよね」と、言われました。

 この時私は、『会社も家族も守ってくれない。皆、他人なんだ。友達と自分の身は自分で守るしかない』と、悟りを開きました。


 そしてさらに続きます。

 

 結婚式の招待状を出しました。

 すると、慕ってくれていたいた他店スタッフと本当に仲の良かったスタッフ以外のスタッフ全員から

「結婚式とか新婚旅行のために休職とったんでしょ?」

「なんかご家族の事とか考えると気持ちよく結婚式出づらいから結婚式の参加キャンセルさせて」と、同じ日の同時刻に一斉にLINEが来たのです。

 

 もうメンタルもライフポイントもゼロになりました。むしろ削がれてマイナスです。


 これは流石に、頭の中が年中春休みの私でも「Mさんからの指示なんだろうな」と、悟れました。


 後日、私の前に突然消えた他店スタッフから連絡があり、彼女もまた彼氏にプロポーズされたとMさんに報告したら当時入社して二ヶ月目の新人の彼女に他店へヘルプへ行かせるフリをしてスパイさせられており、それによりメンタルが来て胃腸炎となり退職していとカミングアウトされました。

 Mさんからは、「○○ちゃん、意外とメンタル弱くて折れちゃったんだよね。」と、聞かされてました。


 また、後に他店の先輩スタッフから更に衝撃的なことをカミングアウトされました。


 Mさんは、年下の彼氏にプロポーズをされており、そのまま寿退社をして彼とアメリカへ永住する予定だったのですが、最初の魔女裁判の様な会議の半年前に破局をし、さらにストレスから子供が授かれない身体になっていたそうです。


 本当にデリケートな部分ではありますが、人の嫉妬や妬みほど怖いものはないと、思いました。


 

 

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