チーム・ブンガブンガ！「福ダンボールの陰謀」

第1話イタズラ好きのイーサン

今日（きょう）も朝（あさ）が来た。

顔（かお）を洗（あら）い、歯（は）を磨（みが）いて、リビングのテーブルに用意（ようい）された朝食（ちょうしょく）を食（た）べる。

「イーサン、今日（きょう）も元気（げんき）？」

質問（しつもん）された天星（あまぼし）イーサンは元気（げんき）にうなずいた。母親（ははおや）の天星蜜柑（あまぼしみかん）は笑顔（えがお）になった。

天星（あまぼし）イーサンは小学六年生（しょうがくろくねんせい）で、日本人（にほんじん）とイギリス人（じん）のハーフである。

そしていたずらとマジックの天才少年（てんさいしょうねん）である。

イーサンは他（ほか）の人（ひと）をアッと驚（おどろ）かせることが好（す）きで、自然（しぜん）とイタズラやマジックに関心（かんしん）を持（も）った。

そんなイーサンが憧（あこが）れている人物（じんぶつ）がいる、ホレス・ド・ヴィアー・コールという男だ。

コールは偉人（いじん）ではないが、イタズラで二十世紀（せいき）のイギリスを騒（さわ）がせた人物（じんぶつ）である。

コールのイタズラの一（ひと）つに、偽（にせ）エチオピア皇帝（こうてい）事件（じけん）がある。

千九百十年、コール達（たち）六人（ろくにん）の大学生（だいがくせい）がエチオピア王族（おうぞく）になりすまし、イギリス海軍（かいぐん）を視察（しさつ）をした。

軍艦（ぐんかん）の中（なか）や兵器工場（へいきこうじょう）を見（み）たコール達（たち）は、あらゆるものを指（ゆび）さして「ブンガ、ブンガ！」と叫（さけ）びながらほめたたえ、偽（にせ）の勲章（くんしょう）を授与（じゅよ）した。

「ブンガ、ブンガ！」はもちろんデタラメな言葉（ことば）だが、当時のイギリス海軍（かいぐん）は賞賛（しょうさん）されていると信（しん）じた。

その後（ご）ロンドンに到着（とうちゃく）すると、新聞社（しんぶんしゃ）デイリー・ミラーに真相（しんそう）と写真（しゃしん）を送り、ネタ晴（ば）らしをした。

そして翌日（よくじつ）の新聞（しんぶん）で大（おお）きく取（と）り上（あ）げられ、面目（めんもく）を潰（つぶ）されたイギリス海軍（かいぐん）は、コール達（たち）の処罰（しょばつ）を求（もと）めた。

しかし犯罪（はんざい）の証拠（しょうこ）が見（み）つからなかったため、コール達（たち）は無罪放免（むざいほうめん）になった。

そして「ブンガ、ブンガ！」は、当時（とうじ）のイギリスで流行語（りゅうこうご）となったのだ。

放課後（ほうかご）の午後（ごご）四時（じ）、イーサンは多目的室（たもくてきしつ）に入（はい）った。

「イーサン、みんなもう来（き）てるぜ。」

イーサンの親友（しんゆう）・武田慎吾（たけだしんご）が言（い）った。

「遅（おく）れてすまない、じゃあ始（はじ）めよう！」

そしてイーサンは拳（こぶし）を掲（かか）げて言（い）った。

「ぼくらは・・・、チーム・ブンガブンガ！」

イーサンが言（い）うと、武田（たけだ）達（たち）五人（にん）が「ブンガブンガ！」と言（い）った。

イーサンがリーダーを務（つと）める「チーム・ブンガブンガ！」のメンバーは、個性的（こせいてき）ぞろい。

成績優秀（せいせきゆうしゅう）で頭（あたま）がいい武田（たけだ）。

不良（ふりょう）だけど情（じょう）に厚（あつ）い神島力（かしまりき）。

いつもひょうきんな文道健介（ぶんどうけんすけ）。

空手の達人少女、斎藤葵（さいとうあおい）。

無口（むくち）だけどマルチな才能（さいのう）を持（も）つ、風間裕斗（かざまゆうと）。

この六人（にん）が、「チーム・ブンガブンガ！」の全（ぜん）メンバーだ。

「さあ、イタズラのターゲットは見（み）つかったか？」

イーサンは五人（にん）を見（み）たが、誰（だれ）一人（ひとり）として手（て）を上（あ）げない。

「イーサン、簡単（かんたん）には見（み）つからないぜ・・・。」

文道（ぶんどう）がぼやいた。

「もう学校（がっこう）でイタズラは難（むずか）しいんじゃない？また唯（ゆい）ちゃんに、目（め）をつけられるわよ」

唯（ゆい）ちゃんこと藤宮唯（ふじみやゆい）は六年（ねん）の学年委員長（がくねんいいんちょう）をしており、「チーム・ブンガブンガ！」のイタズラに目（め）を光（ひか）らせている。

斎藤（さいとう）とは幼（おさ）なじみで、斎藤（さいとう）は「チーム・ブンガブンガ！」を辞（や）めるようにとよく言（い）われている。

「そうか・・・退屈（たいくつ）だな」

「そもそも俺達（おれたち）は非公式（ひこうしき）だからな、先公（せんこう）からも監視（かんし）されてるし。」

武田（たけだ）がいった。

元々（もともと）マジッククラブを作（つく）りたかったイーサンは、教頭（きょうとう）の沢辺（さわべ）に申請（しんせい）したもの、却下（きゃっか）された。イーサンがそれなら勝手に作（つく）っちゃえとできたのが、「チーム・ブンガブンガ！」だ。

勝手（かって）にクラブ活動（かつどう）しているので、先生達（せんせいたち）の間（あいだ）では非公式（ひこうしき）と呼（よ）ばれている。

「それでも俺達（おれたち）は、イタズラでこんな暗（くら）い世間（せけん）を盛（も）り上（あ）げていくと決（き）めたんだ、もっと楽（たの）しもうぜ！」

イーサンが言（い）うと、五人（ごにん）は元気（げんき）よくうなずいた。

イーサンの言（い）う通（とお）り、今（いま）の世間（せけん）は新型（しんがた）コロナウイルスの影響（えいきょう）で、感染者（かんせんしゃ）の増加（ぞうか）など、なんとなく暗（くら）い話題（わだい）ばかりだ。

イーサンはそんな時（とき）こそコールがしたようなイタズラで明（あか）るくするべきだと、心（こころ）から信（しん）じている。だからイーサンはマジックを極（きわ）め、「チーム・ブンガブンガ！」を結成（けっせい）したのだ。

「あの、俺（おれ）にいいアイデアがある。」

ふと神島（かしま）が手（て）を上（あ）げた。

「何（なに）、神島（かしま）？」

「福（ふく）ダンボールの直売（ちょくばい）で、イタズラしないか？」

「それって神島（かしま）の団地（だんち）でやっているあれか？」

神島（かしま）は学校（がっこう）から歩（ある）いてニ十分（ぷん）のところにある団地（だんち）に、母親（ははおや）と妹（いもうと）と暮（く）らしている。

神島（かしま）は二年前（ねんまえ）に、父親（ちちおや）の浮気（うわき）を理由（りゆう）に夫婦（ふうふ）が離婚（りこん）。それを機（き）にこの町（まち）に引（ひ）っ越（こ）してきた。

ツッパっていて近寄（ちかよ）りにくい神島（かしま）に声（こえ）をかけたのがイーサンで、二人（ふたり）は友達（ともだち）になった。

「そうだ。よく人（ひと）が集（あつ）まるから、イタズラもってこいだ」

「福（ふく）ダンボールって何（なに）？」

風間（かざま）がここで口（くち）を開（ひら）いた。

「月（げつ）・火（か）・水（すい）・木（もく）・金（きん）と、食品（しょくひん）が詰（つ）め込（こ）まれたダンボールを、トラックでたくさん運（はこ）んでくるんだ。」

「それって、フードバンクじゃないか？」

「武田（たけだ）、フードバンクってなんだ？」

「いろんな事情（じじょう）で食（た）べられるのに売（う）れなくなった食品（しょくひん）を店（みせ）や企業（きぎょう）から集（あつ）めて、貧（まず）しい人達（ひとたち）に届（とど）ける団体（だんたい）のことをいうんだ。」

「ふーん、じゃあ福（ふく）ダンボールはちがうな。」

「神島（かしま）、どういうことだ？」

「運（はこ）んできた連中（れんちゅう）は、それを売（う）っているんだ。」

「いくらで？」

「一箱（ひとはこ）で七百円。」

「格安（かくやす）だな・・・。」

風間（かざま）は驚（おどろ）いた。

「そうだ、だから俺（おれ）の母（かあ）ちゃんがよく利用（りよう）してる。」

「私（わたし）の母（かあ）さんもよ。」

「俺（おれ）の母（かあ）ちゃんも。」

神島（かしま）に続（つづ）いて、斎藤（さいとう）と文道（ぶんどう）が言（い）った。

「なんだ、君（きみ）たちの家（いえ）も利用（りよう）しているんだ。確（たし）か宅配（たくはい）もできるんだったよな」

天星家（あまぼしけ）でも福（ふく）ダンボールを受（う）け取（と）っている。しかし天星家（あまぼしけ）では直売（ちょくばい）しているところに向（む）かうのではなく、電話（でんわ）で注文（ちゅうもん）して宅配（たくはい）してもらっている。

「え、宅配（たくはい）もできるのか？」

「そうだよ神島（かしま）、しかも宅配（たくはい）だと日用品（にちようひん）・衣服（いふく）・本（ほん）が買（か）えるんだ。」

文道（ぶんどう）が神島（かしま）に言（い）った。

「なんか聞（き）いていると、便利（べんり）だな。」

「よし、それじゃあ福（ふく）ダンボールを売（う）る組織（そしき）に、イタズラするぞ！！」

イーサンが決意（けつい）すると、突然（とつぜん）多目的室（たもくてきしつ）の扉（とびら）が開（あ）いた。

「チーム・ブンガブンガ、一体（いったい）何（なに）してるの！」

「やべっ、藤宮（ふじみや）だ！」

藤宮唯（ふじみやゆい）の登場（とうじょう）に、文道（ぶんどう）が驚（おどろ）いた。しかしイーサンは平然（へいぜん）としている。

「何（なに）って、クラブ活動（かつどう）だよ。」

「全（まった）く、よく飽（あ）きないわね・・・。イタズラに一体（いったい）どんなメリットがあるというのよ？」

「メリットとかは関係（かんけい）ない、やりたいからイタズラをするんだ。」

「された方（ほう）は迷惑（めいわく）よ、非公式（ひこうしき）なんだから早（はや）く解散（かいさん）した方（ほう）がいいわ。」

「なんだと、言（い）わせておけば・・・！」

神島（かしま）が指（ゆび）を鳴（な）らして怒（おこ）った、それを斎藤（さいとう）と武田（たけだ）がなだめる。

「藤宮（ふじみや）、さっきまでの話（はなし）を聴（き）いたでしょ？」

「それがどうしたというのよ？」

「楽（たの）しみに待（ま）っていてということさ、アッと驚（おどろ）くこと間違（まちが）いなし。それじゃあ、今回（こんかい）はここで解散（かいさん）！」

イーサンが言（い）うと、メンバー全員（ぜんいん）が多目的室（たもくてきしつ）から出（で）た。

藤宮（ふじみや）は相変（あいか）わらずの態度（たいど）に、ため息（いき）が出（で）た。