シナリオ通りに生きてきたので、シナリオ終了後は好きに生きさせてくれ!!
マカダミアナッツが好き
第1話 始まりは婚約破棄から
着飾った男女が続々と煌びやかな大ホールに集まってくる。
本日ここで行われるのは王立シャンパーニュ学園の卒業式。
ほとんどの女性が婚約者の男性にエスコートされて入場してくる中、ひときわ艶やかな金髪に美しい緑の瞳。
深紅のドレスを身に纏い、強調された美しい胸元を惜しげもなく晒した一人の女性が舞うように優雅な足取りで現れた。
その女性の姿に誰もがこそこそと噂話をする。
「やっぱり第2王子に捨てられたのね。いい気味だわ」
「いつまであの態度でいられるのか…見物だわ」
女達の眼差しはザマアと言いたげなのに対して男達の眼差しは、どうやって後釜に乗ろうかと虎視眈々と獲物を狙っている肉食獣のようであった。
しかし見られている女性はそんな眼差し等、どこ吹く風とばかりに丸っと無視して、ゆっくりと室内を歩きながら目線だけは忙しなく動かし本来なら自分の隣に立つべき人物を捜していた。
(居ない。やった!やりとげた)
室内に目当ての人物が居ないのを確認すると扇で隠した口元がニンマリと笑み崩れ、こっそりガッツポーズをとる。
この女性の名前はエミーリア・ル・フォレスティーヌ。
侯爵令嬢にして第2王子アベル・ラ・シャンパーニュの婚約者。
(長かった!でも遂にやりとげたんだ。後は無事に婚約破棄されて新しい婚約者として光の乙女シンシア・ローラル男爵令嬢との婚約をバカ王子が宣言して国外追放になればミッションコンプリート!!)
学園祭で演劇部の助っ人として眠り姫役にされたせいで、エミーリアはこの世界を作った女神に演技力を抜擢されて有無を言わさず連れて来られた。
ここは乙女ゲームを元に作られた世界で非常に不安定で、ちょっとでもゲームのシナリオから外れると崩壊寸前になるとかで何度やっても失敗してしまい、その度に神の権限でリセットされている為、次に失敗したらもう後がないからとエミーリアはシナリオ通りにしか動けない様に女神に縛られた。
それでも持ち前の精神力でその縛りから抜け出そうとしていたエミーリアに女神はシナリオ終了後は好きに生きられる様に約束をしたが、それだけでは足りないとごねたエミーリアによって全部で3つの約束というか契約をもぎ取った。
1つシナリオ終了後は人生に関与しない。
2つ元の世界で修得していた技能を使用可能にする。
3つ今後は例え神だろうと人生を強制する事は出来ない。
1と3が被さっているように思えるが、ここまでしないとこの女神を信用出来ないと思っていたエミーリアはとにかく其処だけは譲らず徹底させた。
こっそり舌打ちしていたところを見て、やっぱり3番目の条件をつけて正解だったと思う。
しかしそれとは別に問題が1つあった。
エミーリアは元となった乙女ゲームをプレイした事がない。
よってシナリオ通りに行動しろと言われてもどうにもしょうがないと言う点だ。
『信じられない!乙女のクセに乙女ゲームを1つもプレイした事がないなんて!!さては貴女………貴腐人?』
「誰が貴腐人だ!!俺は別に止めても良いんだぞ?!」
『僕っ子ならぬ俺っ子!!早まったかしら?でもこれ以上、時間をかける訳にいかないし………多少は目をつむりましょう』
元々の容姿が悪役令嬢エミーリアに似ていたのも悲劇の始まりとも言えた。
もっとも艶やかな金髪は鬘で美しい緑の瞳はカラコンだが。
『悪役令嬢の台本を脳内にダウンロードしておいたから、体も言葉も全てオートで動くから貴女はただ逆らわなければいいわ』
それならわざわざ他人と言うか他世界の人間を巻き込むなと言いたいが、エミーリア側にも元の世界から逃げたい事情があったので黙って従う事にした。
赤ん坊からやり直すのは面倒だからと乙女ゲームが始まる直前に拉致されてきたエミーリア。
学園入学から始まって卒業式でエミーリアの出番は終わる。
そうまさに今日がその記念すべき解放日なのだ。
(ああ!おバカ王子。早く来て断罪してちょうだいな♪)
今か今かと夢にまで見て待ち続けたシーン。
来賓者も揃いあとは王族で卒業生のアベルが来れば卒業式が始まる。
一番最後に堂々と婚約者以外の女性ヒロインのシンシアをエスコートして現れたアベルはエミーリアを指差し声高に宣言した。
「エミーリア!貴様のような悪女とは婚約を解消する!!そして私はここにいる光の乙女シンシアと新たに婚約を結ぶ事をここに誓う」
「悪女?私が何をしたと?」
シナリオ通りの台詞が勝手に口から紡がれていく。
エミーリアは内心では早い所、この茶番劇が終わらないかとイライラしていた。
もちろん顔には一切、出ていないので誰もがエミーリアの尊大な態度に顔をしかめている。
「黙れ!貴様がシンシアを虐めていた事も殺害を計画していた事も全て判明している!!本来なら処刑したい所だがシンシアの願いにより国外追放で勘弁してやる。有りがたく思うがいい!!」
侯爵令嬢として育った本物のエミーリアなら国外追放は遠回しの処刑とも言えただろうが、あいにくこのエミーリアは侯爵令嬢でもなければ深窓のご令嬢でもない。
エミーリアにだけ聞こえるメッセージが届いた音と、同時に目の前に現れたミッションコンプリートの文字に「YES!!」と叫びガッツポーズを取るエミーリアに、慌てて取り押さえようとアベルの側近にして騎士見習いのジラルク・ロ・ドミトリーが走りだす。
「姉上。見苦しい真似はせずに大人しくしなさい。そうそう父上からも縁を切ると言われていますから今後フォレスティーヌの家名は名乗らないように」
もとより名乗る気などないエミーリアは異母弟であるタリス・ル・フォレスティーヌの言葉にニンマリとした笑顔を浮かべた。
「キモ!めっちゃキモ!!」
「遂に狂いましたか」
ワンコ系の魔法使いで平民のサルークと宰相の息子で公爵家長男のカインド・リ・シャルドレの呟きにエミーリアは可笑しくてたまらなくなり高笑いを上げた。
「アベル様。私、怖い」
「大丈夫だシンシア。俺がついてるだろう。ジラルク!早いとこ、その女を捕まえろ!!」
「おう!」
アベルの言葉にエミーリアへ手を伸ばしたジラルクは押さえつけるどころか、ふわりと投げ飛ばされた。
「えっ!?」
「乙女の柔肌にみだりに触れないでちょうだい。セクハラで訴えるわよ」
「嘘!」
エミーリアの発言にシンシアが驚きの声をあげた。
「あんた。転生者なの?!」
「いいえ。私は転生なんてしてないわ。女神によって連れて来られた拉致被害者よ」
「な、何を……」
高笑いから一転、クスクスと笑うエミーリアにしつこくジラルクが手を伸ばしては投げ飛ばされる。
「懲りないわね。貴方ごときの腕前で私をどうこう出来るとでも思っているの?もしそうならオメデタイ頭だこと」
「そ、そんなバカな!女の細腕で俺を投げるなんて」
「赤帯の私からしたら闇雲に突進してくる貴方を投げ飛ばすぐらい朝飯前だわ」
「赤帯って何よ」
「柔道の最高段位よ。ご存知なかった?」
「普通の女の子はそんなの知らないわよ!あんたオカシイんじゃない!!」
スポーツ全般に興味のないシンシアには分からないだろうが、エミーリアは暇潰しにありとあらゆる武道を極めていた。
いい加減懲りずに突っ込んでくるジラルクが面倒になったエミーリアは、豊満な胸元から何かを取り出すと床に落とす。
とたんに辺りを煙が充満して視界を奪った。
「キャー!」
「ゲホゲホ!なんだこの煙は!!」
窓際にいた数人の騎士が慌てて窓を開け、サルークが風の魔法で室内の煙を追い出した時には、すでにエミーリアの姿は消えていた。
「おのれ!エミーリア!!国外追放など生ぬるい!見つけ出して晒し首にしてやる!!!」
「なんなのよ!あの女。悪役令嬢のクセに生意気だわ!!」
バカにされた事が余程悔しかったのかアベルはその場にいた騎士達全員にエミーリアを捕まえるよう命令を出した。
「指名手配しろ!罪状は国家反逆罪と光の乙女に対しての殺人教唆だ!!」
「アベル。怖いわ」
「大丈夫だよシンシア。王都から逃げるにしても馬車も馬もない。女一人の足で行ける所など決まっているから、すぐに捕まるさ」
しかし大多数の思惑を嘲笑うかのようにエミーリアの行方は杳としてわからなかった。
すでに死んでいると言う噂のある一方で、魔王に囲われているとの噂もありアベルルートを攻略しても他のルートに入れずにいたシンシアはエミーリアがバグの原因に違いないと、アベルに早くエミーリアを捜して殺せと毎日のように言い続け周囲から本当に光の乙女と言われる存在なのかと疑われるようになっていくのだった。
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