地下室の扉の向こう側

黒うさぎ

第1話 開けてはいけない扉

「ミリル、地下室の扉は絶対に開けてはいけないからね」


「もう、そんなに毎日言わなくたってわかってるわ」


 耳にタコができるほど聞かされた忠告に、ミリルは肩を竦めた。

 そんなミリルの様子を見て、母であるセシルは苦笑した。


「それでも、よ。

 扉の向こうには、とっても怖いことがあるの。

 お母さんもお父さんも、ミリルのことが大好きだから言ってるのよ」


「はいはい。

 ほら、そろそろお仕事の時間でしょ?

 遅れたら、禿げた上司に怒られるって言ってたじゃない」


「まったく、そんな言い方して……。

 確かに禿げているけど、悪い人じゃないわ」


「そんなこと知らないわよ。

 お母さんから禿げた人だってことしか聞いてないんだから。

 いいから、仕事、仕事」


「それじゃあ、行ってくるわね。

 朝御飯は用意してあるから、ちゃんと食べるのよ。

 それと地下室の……」


「わかったって。

 行ってらっしゃーい!」


 ミリルはセシルの背中を押して、半ば強制的に仕事へと向かわせる。

 まったく、過保護というか、なんというか。

 地下室の扉には鍵がかかっており、その鍵は両親が保管しているため、ミリルが開けようとしたところで、そもそも開かないのだ。


 まあ、大切にされているのはわかるし、悪い気はしないが。

 それでも、少しは父のウィールを見習ってほしい。


 ウィールも地下室の扉には近づくなと言うが、そこまで過剰じゃない。

 どちらかというと、大袈裟なセシルの様子を見て、二人で苦笑する仲だ。


 どちらも優しい、大切な両親だ。

 そんな二人を悲しませたくはない。

 だがそれでも。

 地下室の扉の向こうに何があるのか。

 気にならない日はなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る