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「今日は私と彼が出会ってちょうど三年。二人でこの日を、プーさん記念日って呼んでます。ちょうど三年前のこの日、私は親友のアッコと小樽のドリームビーチにいました。そこへ、日焼けした男の人が熊の縫いぐるみを抱えて目の前に現れたのです。どうしたの、その熊。私が尋ねると、彼は熊じゃないプーさんと呼んでくれと微笑み、海で溺れていたプーさんを助けたのだと言いました。私はその言葉に彼の人柄と優しさを感じました。それから最初はアッコと彼の友人を含めてグループでおつきあいが始まったのですが、いつしか二人の間に愛が芽生えていました。彼は私にとってはお日様のような人です。私を照らしてくれて、暖めてくれて、私の心にいろいろな喜びを芽生えさせてくれます。彼はいま、秋田へ出張へいってます。早く帰って来ないかな。またあなたの微笑みで私を癒してほしいな。温もりで包んでほしいな。私はちょっぴり甘えんぼうで、あなたを困らせることがあるかもしれないけれど、これからもどうぞよろしく。ずっとよろしく。リクエストは、あの日の海を思い出す、美波あやさんの青春ドキドキ・桃色トキメキをよろしくお願いします。増毛のラブリーハートさんからのお便りでした」
「あああああ!」
優慈と田中は同時に叫んだ。
「こんな女、いるよな。恥ずかしいよね」
「それについて語る前に三分三十五秒、沈黙してくれない」
「どうして?」
「青春ドキドキ・桃色トキメキを聞きたいから」
抱き締めたくなるようなあやの声がカーラジオのスピーカーから聞こえてくる。その間、田中は出走前の競争馬みたいにいれこみ、鼻の穴を膨らませ、運転しながら優慈の横顔を見ている。おしっこをがまんしているみたいに表情は切なく、早く語りたそうに口をぱふぱふと鳴らしている。優慈は落ち着いてあやの歌を聞けなくなり、歌の二番目の途中で、
「話していいよ」って田中に言った。
「こういうカップルに限ってさ、もうどろどろなわけよ。言葉ではメルヘンチックで可愛いこと言ってるけど、そういうカップルほど肉体で結びついてるわけ。別れる時は、どろどろだぜみたいな。別れたくても、そう簡単にはいかねえみたいな。まだ二十歳前後の癖に下手なベテラン夫婦よりも別れるのが大変、みたいな。ベッドでいやらしく喘いだことも忘れてさ、彼の温もりに包まれてになっちゃう。グループでおつきあいが始まってって言うのも、これはナンパされたんだろう。いつしか愛が芽生えてと言うのも、やっちゃってやっちゃって離れられない関係になったんだろう。それが言葉にするとまさにラブリーで、あやちゃんをリクエストしたくなるような乙女チックな気持ちになっちゃってる。ま、ラジオの番組にこんな便りを出すのは、ぶっさいくな女ばかりだろうけどな。はい、ここで、質問。ちょっと興奮しちゃいましたが、先生はいったい、君に何を言いたいのでしょうか?」
「やりまくり女は神聖なあやちゃんの曲を気やすくリクエストするな」
「はい、零点!」
「違うのかよォ」
「言葉にすると、愛はきれいなものであるということです。いいですか、先生は最初、優慈君に会った時に何て言いましたか」
「憶えてねーよ、そんなこと」
「二人のアルアイ記念日を忘れたのですか」
「勝手に記念日作るなよ、気持ちわり~から」
「ある愛の詩とか、愛と青春の旅立ちとか 小さな恋のメロディーとか、とにかく愛とか恋がつく本をたくさん読め、映画をたくさん見ろって、先生は言いませんでしたか。もちろん君は一冊の本も読んでいないし、一つの映画も見てないと思いますが、ここで言いたいのは、文章にすると、愛は実体験以上に美しくメモリアルなものになるということです。その自分だけの美しい愛に、我々クピドはだまされてはいけません。愛を学ぶのは結構ですが、その愛を愛してはいけないのです。本当の愛は、今日クピドの館で見たものです。だらだらした会話、だらだらした時間、だらだらした思い、それが組みあわさって愛になるのです。その愛を感じてあげて、結びつけるのが、我々クピドの仕事です。ですから、君がプロのクピドになった時、えっ、これも愛かよ。こんなぶっさいくな奴でも人を好きになるのかよ。こんな悪いやつの愛もかなえなくちゃいけないのかよって、憤りや戸惑いを感じることがあるかもしれません。君はまだちゃらんぽらんに生きているからいいとして、真面目な気持ちで接していたらとても人間の愛を叶えることはできないでしょう。だから、あんまり心をガチガチにしないでくださいね」
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