お題:太陽
森の奥深くには魔導士の家が隠されている。
そんな噂は実は真実で、僕は魔導士の見習い。母の留守を預かって、マイペースに魔法の修行をしている。
「最近雨ばっかりだね」
窓を叩く雨粒を眺めてぼそりと呟くと、分厚い本を読んでいた同居人の少女が顔を上げる。
彼女は母の弟子で、腕前はすっかり一人前の魔導士だ。しかし、性格と生活能力に難があって一本立ちできずにいる。
「雨は嫌いか」
「嫌いっていうか、続きすぎると嫌気は差すよね。洗濯物干せないし」
「なるほど……では、太陽があれば良いのか?」
「まあそうだけど、晴れないし……あっ!?」
雨でぼけてて迂闊なことを言ってしまった。僕が振り向くと、彼女は紫光を放つ本を広げ、部屋の真ん中に特大の火球を出現させていた。
「これを圧縮すれば疑似太陽となる。これほどの威力の魔法を瞬時に展開できる私、さすが天才」
「待って待って待って火事になる!!」
火球はどんどん小さくなり、その熱気と光力を高めていく。肌がジリジリと焼け、じわりと汗がにじむ。少女は汗をかきながらも魔法の制御を続ける。
「問題はない。私を誰だと思っているんだ。稀代の天才魔導士様だぞ。火力はコントロール下にある」
「だったらとりあえず解除してくれないかな!?」
「指で押さえつけたバネを放すとどうなるかわかるか?」
「一気に跳ねる……よね」
「いま魔法を解除するとそうなる」
「おいコラ自称天才!!」
まずい。このままじゃ部屋がサウナになるか森が火事になる。どうにかしないといけない。
部屋を見渡し、僕は咄嗟に窓を開けた。
「ここから外に飛ばして!」
「ん」
スイカぐらいの大きさになってもまだ縮み続ける火球は雨の中に飛び出すが、雨粒を瞬時に蒸発させ続ける。
「そのまま空で解放!」
火球は空高く飛び去り、黒雲の中で爆裂した。その威力たるや、特大花火に匹敵する規模だ。
「おお、すごい威力。さすが私」
「あっぶな、あんなの室内で爆発したら骨も残んないよ……」
「案ずるな。天才の防御魔法にかかればあの威力でも無傷だ」
「家は全壊するよねソレ」
呆れていると、ふと窓から光が差した。
「晴れてる……!?」
「さっきの爆裂が曇天を消し飛ばしたか」
馬鹿みたいな話だが、この天才は実際に太陽を出して見せたということだ。
「おい、太陽出したぞ」
「う、うん。これで気持ちよく干せるよ」
「よしよし。お前を笑顔にしてみせた私はすごいだろ」
彼女は満足そうに笑うと、また読書に戻った。彼女なりにぼくを喜ばせようとしてくれたのかもしれない。
「ありがとね」
「よせやい。照れるぜべいべー」
「家の中で火を出すという無鉄砲に関しては許してないけどね」
「……干すの手伝うから師匠には黙っといてくれませんか」
「畳むのも手伝ってね」
「仕方あるまいて……」
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