お題:電車

 私はいま、窮地に立たされている。

 朝の通学通勤となれば、田舎の電車でもそれなりに混んでくる。学校と家がかなり離れている私にとって、電車でほぼ確実に座れることが唯一のアドバンテージと言える。

 今日も座った。そこまではいい。だが、昨晩に撮り貯めたドラマを一気に見たせいでめちゃくちゃに眠たくなったのだ。最初は耐えていたものの、やがていまが何駅かもわからないほどに朦朧として、いつの間にか気絶するように眠ってしまった。

 そして現在。私は隣に座っている誰かの肩に頭を乗せたまま寝たフリをしている。

「おはすー……え、彼女??」

「しー。彼女じゃないよ。けど、寝てるから学校までは起こさないであげて」

(はわわわわこの声は間違いなく私が密かに懸想している男子ぃぃぃぃ)

 ということで絶体絶命。

 起きれば恥ずかしくて死ぬ。寝れば良心の呵責で死ぬ。どちらにしろガラスハートが砕け散ると確定した私は、どちらの方が軽傷で済むかを脳内で勘定する他ない。

 さて考えよう。

 起きたとして、どう誤魔化す? 肩に寄り掛かったことを謝るか? いや、顔を合わせたらまずキョドって何も言えなくなる。でも何事もなかったようにスンとしたところで何の意味が???

 じゃあ寝たフリ? でも結局学校の駅に着いたら起きねばならない。タイミングよく起きたら寝たフリとバレるし、起こされ待ち……いや何その役得感。いやいやいや迷惑かけるなアホめ。アホめ!!

「――おーい。朝ですよー」

「はっ!?」

 春風のように耳から脳へ吹き抜けた優しい声で跳び起きると、隣にいた彼は目を丸くしていた。

「おッ――は、ようございます……」

「……ふふっ、おはよう」

 その笑顔を見た瞬間、私は恥だとかそういうのが全部どうでもよくなった。

「ぐっすりだったね。僕の肩、そんなにいい枕だった?」

「はぇ!? あ、その、最高でした!」

「そっかぁ」

 前言撤回。死にたい。



「ねえ、僕の肩って柔らかい?」

「野球部じゃねぇだろお前」

「そうじゃなくて……まあいっか。……明日も寝てくれるかな」

「はぁー??」

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