お題:ゲーム
「ほらほらほらこっちだこっち!」
TPSの画面内で俺が操作するキャラが逃げ回り、殺人鬼を翻弄する。
「フック3個も壊した俺が憎いだろ? このまま板グルに付き合ってもらうぞ!」
倒した板を挟んで、肌がヒリつくギリギリの攻防を繰り広げる。上がる心拍と精密性を増す指先。どこまでも昇っていくパフォーマンスに昂揚が止まらない。
ピンポーン
「俺が倒れてケバブされようが発電機は回る! キラーやってりゃキラーの嫌がる行動は知ってんだよほらもっとチェイスしようぜ!!」
ピンポーン ピピピピンポーン
「まだまだ足りねぇ、もっと追ってこい! ダンスウィズミーッ!!」
「わあああああああああ!!!」
「あああああああああ!!?」
「うるさい!」
「テメェがビビらすからだろうが! ってやべッ」
思わず画面から目を逸らしてしまい、その隙に俺はダウンを取られていた。そして、怒りを体現するように仮面の殺人鬼が俺のキャラをナイフで滅多刺しにしていた。
「あーメメモリかよ。まあいいや。んで、何の用……」
「コッフ……」
「あ……」
我が家に乗り込んできたこの女、信じられないほどホラゲーが苦手なのである。
数分して目覚めると、腹いせで俺の頭を引っ叩いてきた。
「いつものことだけど、気絶するほどか? ホラーはまだしも、血とかって女の方が平気だったりするもんじゃねぇのか」
「個人差!!」
「あっそ……んで、用件は?」
「ヒマだから遊びに来たのよ」
「はぁー? 俺はポイント稼ぎついでに赤帯まで上るという重要な仕事があるから帰れー?」
「わざわざ来てあげたのに冷たすぎない?」
「呼んだ記憶がどこにもねぇな?」
「若年性なんちゃらじゃないの? 怖いわねー」
イラッときたので画面に殺人鬼の顔をドアップで表示させた。
「コッフ……」
「草」
結局、俺がプレイする様子を眺めるということで落ち着いた。
「苦手なのは結局変わらないんだろ?」
「人がやってるのを見るのは好きなの」
「あー、まあ実況動画とかもあるしな」
テキトーに喋りながら発電機を回していく。
「どういうゲームなのこれ」
「雑に言うと鬼ごっこ。キラーはサバイバーを殺しにくる。サバイバーは発電機を回して脱出する。オーライ?」
「面白いの?」
「面白くなけりゃやらねぇ。キラーも個性あって面白いんだぞ? 例えば――」
言おうとした瞬間、画面内に血まみれの看護婦が現れた。
「あぶねっ、ナースかよ。距離伸びてんなこれ」
「コッフ……」
「見ただけでアウトとかうっそだろお前」
「怖い……そいつこの前の映画で見た……」
「サイヒルか? なんならこのゲーム三角様も「コッフ……」おいマジかよ」
名前だけでアウトとはさすが三角様。
「何回も言うけど、苦手なら無理すんなって。別ゲーでもいいんだからよ」
「いまアンタがやりたいんでしょ。だったらそれでコッフ……」
「心臓止まるんじゃねぇのお前」
観覧者の心肺が心配になりながらも、ゲーム内でチェイスが始まる。
「お前の距離は見切ってんだよここ! そしてここで旋回! っしゃオラ!」
「瞬間移動してる……」
「それがナースだからな。扱いにくい反面、使ってる奴らは素人と猛者の二択と思っていい。おいしょぉあぶねぇ!」
危うく糸ノコの餌食になりかけたが、チェイスはまだまだ続く。久々に出会った猛者との戦いに口角がつり上がる。
「……楽しそう」
「そりゃそうだろ。このヒリつきが楽しいからゲームはやめらんねぇんだ」
「このゲームの楽しさはわかんないけど、楽しそうなアンタを見てるのは好き」
「……そうかよっ」
指先に力が入る。これは敵との駆け引きが生む昂揚感だ。決して、こいつにいいところを見せたいとかそういうのじゃない。断じてない。
違うんだからな。
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