お題:夏

 海水浴、BBQ、肝試し……そんなものとは縁遠い人生を送ってきた。

 羨ましく思うことも多々あるが、片田舎に住む根暗からすると敷居が高い。なので、こうして河原でぼーっと寝転んで空を泳ぐ雲を眺めるのが俺なりの夏なのだ。

「またここにいたのか」

 視界を見慣れた顔が遮る。日に焼けたスポーツ少年といった顔立ちのそいつは、断りもなく横に座った。

「こんなとこで昼寝してんのに、全然肌焼けねぇなお前」

「日焼け止めしてんだよ。焼けたらヒリヒリするだろ。……つーかお前、部活は?」

「今日休み」

「じゃなくて。お前の部活、みんなでどっか遊びに行くんじゃなかったのか?」

 運動部の大半は、往々にして夏の休日には集団で遊びに出る。そこで夏日の気温より暑苦しい友情や花火めいた恋愛模様を展開するのが常であるらしい。

 友達とはいえ、こいつも男だ。夏の昼間から午睡するのが趣味の堕落男より、スポーツ少年たちとそれらしい青春を送る方がよっぽどいい経験になるだろうに。

「いやー、なんか今日は昼寝したかったんだわ」

「……じゃあ寝とくか」

「おう」

 それきり、特に会話することもなく俺は空を眺める仕事を続けた。隣の同僚は一瞥もしてないので、何をしてるやらわからない。

 会話も形もいらない友情、と言えば聞こえはいいが、実際はそんなモンでもない。こいつは本当に昼寝がしたい気分だっただけなのだ。

「なあ」

「んだよ」

「入道雲ってテンション上がるよな」

 ただ、まあ。

「……わかる」

「だよなぁ」

 貴重な休日を、こんなクソどうでもいい会話で浪費できる程度の友情は、大事にしたいと思う。

「あ、そういやスイカ持ってきてんだ。あとでカチ割ろうぜ」

「……川で冷やせよ」

「うぃー」

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