お題:庭
「箱庭?」
漫画以外で初めて聴く名称に首をかしげる。隣を歩く女子は控えめに頷く。
「う、うん……趣味で、やってるの」
「ふーん。で、うちの母さんに会いたいってのは?」
「ネイリストなんでしょ? その……装飾に使う小物とか、どこで買ってるか知りたくて」
ネイルの飾りはピンセットで扱うほど細々としている。そういったものを使う趣味と聞くと、少し興味が湧いた。
「どんな感じなのそれ」
「きょっ、興味、ある?」
「まあ、母さんの血が流れてるせいか知らんけど、俺も小さい時はプラモとか粘土細工とかやってたし」
「そうなんだ……!」
うつむきがちながらも、嬉しそうなのがわかった。彼女はせこせことスマホを取り出すと、俺に画面を見せてきた。
「こ、これ。先月作ったの」
写真には、森が映っていた。ロケットが墜落した森だ。
小さなプラスチック箱の内側に、世界が創られていたのだ。
「これ……一人で作ったのか? サイズ感は? この箱何センチ?」
「10センチ平方ぐらい……えへへ」
「すごい……墜落の衝撃で飛んだ土が木に付いてる。こんなにこだわれるの、才能だよ」
「て、照れる……」
嫉妬もわかないほどの出来栄えに興奮しながら、俺は続けて尋ねる。
「次の作品のために母さんに会いたいのか?」
「うん。あ、あのね、次はメルヘンな家を作りたいの。ヘンゼルとグレーテルみたいな家。だから、キラキラしてて小さいモノが欲しいなって……」
「なるほどな……たぶんだけど、この写真を母さんに見せたら大喜びで協力してくれる」
「ほ、本当? そうだったら、嬉しいな……」
間違いなく、母さんはこの子の手を握って黄色い歓声を上げる。そして作品をブラッシュアップするために協力を惜しまない。
あの人は根っからのクリエイターだ。いい作品を創り上げるためなら、損得勘定なんて存在しない。
「息子の俺が断言する。絶対に母さんは協力してくれるぞ」
「そ、そっか……えへへ、ありがとう」
髪で顔を隠しながら控えめに笑う彼女は、心なしか足取りが軽くなっていた。
俺の予想通り、母さんは彼女の作品に喰いついた。過去の作品まで見てモノ作りトークに花を咲かせ、最後には使えそうな道具を紙袋いっぱいに詰めて押し渡してしまった。
……そして、触発された俺も久々にプラモを買ってしまったのだった。
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