お題:玄関

 朝の玄関というのはどうしてこんなにも気が重たくなるのだろう。

 鉛をまとったような足の重さも、無気力に沈んだ気持ちも一過性のもの。学校へ行けばそれなりに楽しい一日が過ごせるとわかっている。なのに、毎日この心は靴を履くことを拒否する。

「……しんどい」

 口に出した瞬間、その感情は実体を持つ。小さな気持ちひとつで自縄自縛するのが私の悪癖だ。

 制服も着た。小さなオシャレもした。靴を履いてドアを開ければいいだけ。

 たったそれだけができない。

「…………」

 座って、天井を眺める。このまま、何も考えずに一日過ごしてもいい気分だった。

 その時、ドアが外から開いた。

「おはよ」

 顔をのぞかせたのは、クラスの友達。クールな女子だ。

「おはよう……」

「今日もダルそうね。ほら」

 彼女が手を差し伸べる。私はいつものように、頭を寄せた。

「そいっ」

 ぺしっとデコピンが決まる。手加減を感じる優しい痺れが、不思議と私の気持ちをなだめた。

「行くよ」

「ん……」

 腕を引かれる。つかえが取れたみたいに立ち上がれて、靴も履けた。

「……ねぇ」

「なに?」

「お……おはよう」

 彼女は涼しげに笑った。

「おはよう」

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