悪の科学者酒場にて

楠本恵士

第1話・女性戦闘員改造開始


 怪しげな機械が並び、不気味な電子音が聞こえてくる。

 銀色の手術器具が淡々と、金属のトレイの上に並べられていく。

 麻酔ガスボンベの残量確認が行われている傍らでは、吸引式チューブの麻酔カップのアルコール消毒が行われていた。


 悪の組織の地下基地──『人体改造室』照らされる手術灯〔無影灯〕の下、円形の人体改造台に、ブラジャーとパンツ〔ショーツ・パンティ〕姿で大の字に広げた手足を革のベルトで固定された若い女の絶叫が、改造手術室に響き渡る。

 女性の下着を、あざとく、少しズラす改造医。


「いやあぁぁぁぁぁ! あたしの体に変なコトしないでぇぇぇ! なんで、変な風に下着の位置をズラしたの?」

 絶叫している女は、なぜか嬉しそうだった。

 手術着姿の男が手にした、麻酔カップを女の口にあてがって言った。

「眠れ………」

 麻酔ガスを吸引させられた女の意識が遠退き、眠りに落ちる。


 女が昏睡したのを確認した、改造外科医執刀責任者が言った。

「これより、女性戦闘員の肉体強化術式を開始する」


 小一時間後──男性改造外科医専用ロッカー室で、私服に着替えているマッド外科医たちの姿があった。

 着替え終わった、マッド外科医に同僚のマッド外科医が話しかけてきた。

 先ほどまで一緒に人体改造室で、下着姿の女戦闘員の強化改造を行っていた二人だ。

「どうだ、帰りがけにいつものバーで一杯……」

「それいいな、改造台の上で麻酔が効いて眠っている、アイツはどうする?」

「女性医師たちに、任せておけばいいさ……起きた時に、オレたちが飲んでいるバーの店名を伝えるメモを枕元に置いておけば……後から来るだろう」

 アイツと言うのは、小一時間前に、円形改造台で改造術式をしていた女性戦闘員のコトだ。

 

 二人の改造外科医は、馴染みのバーに向かった。

 赤レンガの壁に挟まれた狭い階段を下った先にある小さなバーにドアを開けて入ると。

 いつものように客は自分たち、二人だけしかいなかった。

 カウンターの中では無口なバーテンダーが、グラスを布で拭いていた。

 二人の改造外科医は、カウンター席に座ると生ビールと簡単なツマミを注文した。


 出てきたビールを飲みながら、二人は壁に額に入って掛けられているスナップ写真に目を向ける。

 それは、雛壇ひなだん前列の中央の椅子に座った怪人を中心にして。

 幹部、改造外科医、戦闘員たちが記念撮影しているデジタル写真だった。

 ビールを飲みながらの、改造外科医二人の雑談がはじまる。

「あの写真に写っている怪人が、この店のマスターの正体かな?」

「どうかな、写真のアレいったいなんの合成怪人なんだ?」

「ジャイアントパンダとハシビロコウかな?」


「それにしても、最近拉致してきた美女の改造ないな……女を改造する時と、男を改造する時は、どうしてもモチベーションが違う……いつからだっけ、改造素体の無意味な全裸化が禁止になったのは、今は改造する時は下着か水着姿だな」

「悪の組織協会の合同規定だからな、スッポンポン改造に不快感を示す改造助手のグループが協会に抗議して変わった」

 乾きモノのピーナツを摘まみながら、改造外科医が言った。

「女性の改造外科医や改造助手は、改造台に仰向けに横たわる改造素体男性のブリーフ姿にテンション上がるが、オレたちが男のパンツ姿見てもなぁ」

「たまに、スケジュールに女性幹部の改造予定が組まれていて期待すると、くたびれた下着姿のババァだったりしてモチベーションだだ下がりになる」

 改造外科医たちの雑談は続く。

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