[No.21] 【読者の集い】蚤の市で発掘〝英雄の剣〟

 ♂ ノーラン 44歳(ジャンカード市・武器収集家)


 うれしくてうれしくて仕方しかたがねェからよ、ここで言わせてくれ。

 のみいちが開かれるって聞いて、ちょっくら《ボルグチッタ町》に行ってきたんだ。

 あっ、のみいちなんて言ったら最近の若いやつはわからねェか? 使わなくなったガラクタを住民が持ち寄って売り買いするいちのことだよ。最近ではフリーマーケットなんて小洒落こじゃれたふうに呼ばれてるらしいからなァ。けど、おいらにはやっぱり蚤の市のほうがしっくりくるね。

 そんでよ、人出入ひとでいりでにぎわってる会場の一角いっかくに、小汚こぎたね茣蓙ござを広げて鼻垂はなたらしてるボウズがたんだよ。並べられている商品は、剣が一本だけ。それもけてさびの浮いたボロボロの剣なもんだから、だ~れも見向きもしねェ。足を止めたのはおいらだけさ。

「おい、ボウズ。こいつはいくらだ? どこで見つけた?」

 周囲しゅういやつらは、からかうのはやめろ、とでも言いたげな目つきで通り過ぎて行きやがるが、おいらはそんなつもりは毛頭もうとうない。いたって真剣しんけんだ。

 ボウズが言うには、剣は森の中で見つけたらしい。大地にさったまま長く放置されてたみてェで、つたからんでたって話だ。武器としては使い物にならないが、つば刻印こくいんされているりゅう紋章もんしょうがかっこよく、引き抜いて持ち帰っていた。まあでも、かざって置くのもきて邪魔じゃまになったんで、小遣こづかいのしにしようと売りに出していたわけだ。

「おじさん、買ってくれるの? だったら1500コバーン。ほんとは1000コバーンにしてたんだけど、もうちょっとお小遣いが欲しくて」

 こういういちではふつう売り手は値引きするもんだが、ボウズは逆につり上げやがった。

 いけかねェ面白いガキにおいらが出してみせたのは、一万コバーン硬貨こうかさ。

「一万コバーン硬貨なんか出されてもおりがないよ……」

「釣りはらねェよ、とっときな」

「ほんと!? おじさんおなか出てるだけに太っ腹だね! じゃっ!」

 ボウズはおいらの手から金をひったくると、逃げるようにけて行っちまいやがった。やり取りを見ていたまわりの奴らは、おいらのことを馬鹿を見る目だったな。けどよ、馬鹿はそいつらとボウズさ。この剣の価値もわからねェんだからよ。

 おいらが手に入れたのは、〝人魔大戦じんまたいせん〟期に使われていた年代物の骨董剣こっとうけんなのさ。刻印されている竜はワイバーンで、帝国軍の紋様もんようだ。人魔大戦期の剣ってだけでもその手の収集家では高値で取り引きされているが、それが我らが英雄えいゆうしるしの入った代物しろものとくりゃ、さらに価値が上がる。一万コバーンなんてもんじゃねェ、十万コバーン? いいや、物によっちゃ百万コバーン以上するさ。

 な? 笑いが止まらねェだろ? まったくいい買い物をさせてもらったよ。これだからのみいち巡りはやめられないね。冒険者やってるよりよっぽどいいぜ。


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