[No.9] 青天の霹靂 少年三名、相次いで打たれ死傷

 ――空はくも一つ無い青空だったんだ……。

 目撃者となった少年・ピエトロくん(10)は体をふるわせる。

 ピエトロくんをふくむ四人の少年は、村外むらはずれのおかにある遺跡いせきで遊んでいた。切り出した大理石だいりせきつくられたゆかはしらのみが残っている議堂ぎどうのようなところで、村でもよおものが開かれるときにステージとして活用される場所でもあるが、普段は利用されることはなく、子供たちのかっこうの遊び場となっている。

 ピエトロくんたちのお気に入りの遊びは、冒険者ごっこだ。読者の皆様も、幼い時分じぶんに一度はおこなったことがあるのではないだろうか。剣士や魔法使い、魔物や精霊になりきり、さらわれた王女の奪還だっかんやトレジャーハントなどの場面を立ち回る活劇かつげき遊びである。

 その日の演目えんもくはグリフォン退治たいじだった。四人のうち三人は、剣士けんし弓士ゆみし魔道士まどうしの人間側。じゃんけんで負けたピエトロくんが魔物側のグリフォンという配役はいやくである。そうして彼らがごっこ遊びにきょうじているさなかのことだ。

 閃光せんこうあた一帯いったいが白くおおわれた瞬間、「ドーンッ!」とけたたましい音がとどろいた。

 ピエトロくんがまぶたを開くと、剣士役の子が倒れてしまっている。体からは蒸気じょうきのようなものが上がり、肉がけるにおいが鼻をつく。かみなりだと思って天をあおいだが、雲一つない青々とした空。そこでまた視界が白くはじけ飛んで、轟音ごうおん

 今度は弓士の子が同じように倒れていた。魔道士役の子が泣きながら逃げ出して行くが、ピエトロくんは恐怖のあまり動けない。何が起こっているのかわからうないうちに、三度目の閃光せんこうと轟音。倒れたのは逃げ出していた魔道士役の子だった。

 ――ぼくもきっとやられちゃうんだと思った……。

 だが、四度目はなかった。ピエトロくんが石柱せきちゅうのにりかかって震えていると、「ヒヒーン」という馬のようないななき声が聞こえた。上空を振り仰ぐと、つのつばさえた茶色い馬が真上を横切り、飛び去って行くところだった。

 角と翼の生えた馬――と聞けば、幻獣げんじゅう・ペガサスを思い浮かべる人が多いだろう。

 しかし、その色が白ではなく茶色ならば、なるもの。

 〝ペガサスモドキ〟と呼ばれる魔物である。ペガサスは温厚おんこうかつ知的で人にあだなす存在ではないが、この偽物にせものは別だ。好戦的こうせんてきではないとされているが、頭が悪く臆病おくびょうである。そのため、危機きき察知さっちすると先手せんてを打って攻撃を仕掛しかけてくる。そして相手がひるんだすきに逃げ出すのだ。

 ペガサスモドキは、ごっこ遊びをしていた少年らを、敵対的てきたいてき存在と認識にんしきしまってしまったのだろう。ピエトロくん以外の三人は、自作した木製のおもちゃ(剣、弓、杖)を手にしていた。それを脅威きょういと感じ取ったのだ。ピエトロくんだけは何も所持していなかったため、攻撃対象とならなかったのである。『馬鹿ばか』という言葉に『うま』の字が入っている所以ゆえんのような話だ。

 村では、ハンターをやとってペガサスモドキを駆除くじょする方針を固め、脅威が排除はいじょされるまでは遺跡への接近・使用を全面的に禁止する。なお、被害にった少年三人のうち、二名は死亡、一名が意識不明の重体となっている。

 ――じゃんけんが弱くてよかったよ……。

 と、ピエトロくんは最後に心境しんきょう吐露とろしてくれた。

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