映画を観る女

富升針清

第1話

 最初の一週間は、ただただ泣き喚いめてた。

 次の一週間は、空元気でやりたい事をやろうと決めた。

 その次の一週間は、また大泣き。

 そんで、次の一週間は何もやる気が起きずにただただ部屋の天井を見ていた。

 で、また次の一週間。


 私はひたすらに映画を見ている。


 映画って、苦手だったんだ。

 二時間ぐらい、ずっと観てなきゃいけない。楽しならいいけど、そればっかりじゃない。

 純粋に面白くもない映画もあれば、私に合わない映画もある。

 どの映画がそれかなんて、話を聞いても分からないし。

 良く、テレビでやる話題の映画ってやつを録っても、結局観ないで終わっちゃう。

 男の人は映画好きだよね。

 私の元カレも映画好きだったよ。

 何回か一緒に見たけど、彼が面白そうと言う映画は大抵何がいいのか全然わかんなかった。

 観終わったら観終わったらで、彼も微妙だったねって言うし。

 でも、また違う映画を再生しようとするんだもん。

 意味がわかんないよね。

 私は全然分かんなかった。

 結局、別れる迄。

 多分、今もわかんない。

 だって映画って、面白いものも少ないでしょ?

 ずっと観てるけど、やっぱり楽しくないよ。

 恋愛モノを観ても、アクションを観ても、アニメを観ても、最後の感想はふーんってなっちゃう。

 でも、一瞬、一瞬に目は惹かれる。

 恋人達が海に行く風景を。

 敵から恋人を守る景色を。

 子が親から巣立つ情景を。

 一瞬、目を奪われてしまう。

 あ、いいな。

 私も、こんな風になれたらな。

 一瞬の夢見がち。

 次の場面になれば、その気持ちも直ぐに忘れてお決まりのパターンかよって文句が出る。

 それでも、私は映画を観る。

 起きてる限り、好きでも興味もない映画を。

 途中で寝ちゃう事もあるよ。

 だってさ、楽しくないじゃん。

 でも、ずっと楽しいって、それこそ楽しくない事なのかもね。

 好きな場面がずっとループしてても、楽しくない。

 人生と一緒だね。

 ははは。大人になったな。私も。

 そう言えば、高校生の時に付き合った彼氏はやたらと私に映画を勧めてきた。

 ちょっと変な人で、変な映画ばっかり勧めるし、やたらと難しい言葉を使うけど、一緒に観た子供が過去に行く映画は楽しかったな。

 思えば、家族で観たアニメ映画以外で初めて観た映画だったかも。

 でも、当時その映画を見てない事を無茶苦茶バカにされた事は絶対に忘れないから。

 それぐらい有名な映画だったのは後で知ったけど、古い映画じゃん。

 でも、楽しかったな。

 終わった後、凄く楽しいって彼氏に言ったら、凄く興奮して熱く語られたっけ。

 今も、彼は映画を観ているのかな?

 この映画も、観てるのかな?

 観たけど、やっぱりつまらなかったよ。いい彼女ぶらなくていい今なら、そんな話もできるのかな?

 大学に入って出来た彼氏も、映画が好きだった。

 サークルの先輩なんだけど、日本の映画、邦画。そう、邦画が好きなんだって。

 先輩は私に映画を勧めることはなかったし、一人で勝手に映画観てるタイプの人だった。

 クールで自分の世界があってかっこいいって当時は思っていたけど、高校生の時の彼氏と同じでただの映画バカだったんじゃないの? と、今では思う。

 邦画って言っても、何か知らないアイドルの子達が出てくる学芸会見たいのじゃなくて、これが映画なの? って思うぐらいマニアックな作品を彼は愛してた。

 それぐらい、私の事を愛してくれてたら上手くいってたのかもね。

 でも、多分、無理。

 今見てるアイドルの子達がやってる学芸会みたいな映画の方が、多分私は面白い。

 マニアックな映画は驚かされる事も多いけど、私にはまだまた早かったかも。

 良さがわかるまでには百億年ぐらいはかかりそう。

 百億年後付き合えれば、良かったかもね。

 また、あの狭い部屋で一人邦画を観てるのかな?

 私も、今は似たようなモノだけどさ。

 映画って、何がそんなにも楽しいんだろう。

 私と付き合う男達は、皆んな映画が好きだった。

 私は、それを理解する事は出来なかった。

 死の淵でも、それは一緒だろうな。

 でもさ、不思議なんだ。

 映画はやっぱり苦手だと思うけど、嫌いじゃない。

 良さは全然わかんない。

 また観ようとは思わない。

 でも、嫌いじゃない。

 当たり前の情景を、当たり前じゃない事を教えてくれるのはとても嫌い。

 続きがある人達を映し出すのは酷い。

 前半後半に分かれてる作品なんて悪意がある。一層憎く感じてしまう。

 でも、嫌いかと聞かれたら嫌いじゃないと答えてしまう。

 私って、嫌な女だな。

 ボロボロになったお気に入りのパーカーを無意識に摩ってしまう。

 嫌な女なんだ。

 一人で、当て付けみたいに映画を観てさ。

 一人で、良くわかんないって愚痴を言ってさ。

 真剣に観てるわけじゃないのに、評論家気取りで。

 この映画を作った人達だって、私みたいな奴に見て欲しいなんて思わないよ。

 私だったら、絶対嫌。

 元カレは、君にも合う映画は必ずしもあるよって言うけどさ、こんなに多いと探せれるわけないじゃん。

 海に指輪捨てる映画みたい。

 で、指輪を探すの。

 どうせさ、見つかるんでしょ?

 映画だもんね。

 奇跡だとか言ってさ。

 それで真実の愛とかに辿り着いて元鞘でしょ?

 現実、そんな事はないじゃん。

 絶対にさ、指輪なんて見つからないよ。

 私が私の映画を見つからない様にさ。

 海に入って寒くて、結局指輪見つからずに風邪ひいてさ。間抜けの間抜けって感じで元鞘にも戻らなくて。

 無駄な時間過ごしたなって思いながらベッドの上でうんうん唸って。生産性のかけらも無い様な事になるに決まってるじゃん。

 そんな事を考えてるから嫌な女なんだよね。

 とか、思ってたらさ。

 その映画でも、結局指は見つからなくて、主人公は風邪をひいて、一人ベッドで恋人も戻ってきてくれなくて、寂しい一日を過ごしてた。

 その時ばかりは、咳き込む事も厭わずに大きな声を上げてしまったよね。

 映画なのに!?

 映画なのに、上手くいかないの?

 でもさ、これ、私が望んでた現実的な結末じゃん。

 普通、わかるー。とかさ、やっぱりそうなるよね! とかさ、共感が湧いてくると思うの。

 でも、私に巻き起こった感情は、つまんねー。の一言だけ。

 多分だけど、どっちの結末でもつまんねー。って言ってたと思うよ。

 だって、他人事だもん。

 そうだよね。

 映画ってさ、結局は他人事の集大成じゃん。

 私が主人公になるわけでもないし、私がその映画に出てくるわけでもない。

 同じ事をしている様で、私じゃない。

 結局は他人事を画面を通して観てるだけ。そりゃ、つまんないよ。

 私が主人公だったら、この映画も面白く感じられたのかな?

 いや、そんな馬鹿な話はない。

 絶対楽しくないよ。

 現に、今も楽しくないじゃん。狭い部屋で映画観て。ご飯食べては寝て、起きたら白い天井じゃん。

 こうなれたらいいなって、そんな夢見がちだって一瞬で終わっちゃう。

 寝て覚めて、横を見たら点滴のチューブ。

 映画だったら終わりがけなのに、毎日変わらないわけ。

 楽しいわけがないんだよね。


 そろそろ私、死んじゃうのに。


 馬鹿だよね。

 何で、好きでもない映画観てるんだろ。

 ねぇ、神様。

 私は嫌な女だけどさ、でも、悪い女じゃないと思うんだよ。

 だからさ、私は天国に行きたいな。

 天国でさ、映画の話をしたい。

 もう、ここでは出来ないから。

 天国で、今日迄観た映画の話をしたい。

 映画って、楽しくない、つまんな事が多いんだけどさ。

 他人事の集大成だけどさ。

 ふーんって感想言っちゃうけどさ。

 他の人と語りたくなっちゃうよね。

 あれ観た?

 あの場面、素敵だったね。

 私はあれが好きで、あれが嫌い。

 あの気持ちはわかるかも。

 他人事なのに、自分事みたいに語って。

 当たり前の言葉がさ、当たり前の様に出て来てさ。

 それって、最高に映画っぽいと思わない?




 手遅れな癌は今日も私を蝕むけど、今日も私は映画を観る。

 私の隣に恋人は誰もいないけど、もし、彼等が天国に来る日が来たなら、映画の話をしてやってもいい。


 ねぇ。天国では、映画の話をしようよ。

 

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