懲役3657年の高校生

@nobou1092

第1話 プロローグ


 ――20XX年・アメリカ合衆国内・所在地不明・グランドン刑務所。


 ここは合衆国内のとある島に建てられた刑務所。

 かつて脱獄不可能との伝説を誇ったアルカトラズ刑務所のごとく絶海の孤島にそびえたつ灰色の建物には、マフィアのボスや大量殺人鬼など、他の刑務所には収容不可能と判断された凶悪犯ばかりが集められている。

 外にいる仲間が受刑者を脱出させようとテロを起こさないように、その所在地は一切不明。看守もみな軍人が務めるという場所だ。


 その刑務所の上空で、黒塗りのヘリコプターが十台旋回している。

 頑健な鉄筋コンクリートで出来た刑務所内にまでその音は響き渡り、囚人たちは何の騒ぎだと興奮し、血に飢えた野獣のように牢の柵をガンガン揺らす。

 

「おい、聞いたか。カシマが出所するらしいぞ」

「What⁉ ありえないだろう。あいつは懲役3657年だぞ、出られるわけがない」

「それがマジだ。このヘリの音も、奴のお迎えだって話だ」


 今、カシマの噂をしている男たちも、顔に入れ墨の入ったスキンヘッドの白人は全米で勢力を拡大しているギャングのボス。もう一人の黒人は十件の銀行強盗と大量殺人の罪で服役中の人物だ。


「カシマといえば、覚えているか。解体屋との一件を」

「当たり前だろ。この刑務所でも一番イカれてる、元グリーンベレーの殺人鬼で人間を生きたまま解体するのが大好きな変態野郎だ。あいつがアジアンの猿を「女」にしてやるってカシマにちょっかいかけて半殺しにされた話だろ」

「半殺しどころじゃないさ。よっぽどのことをされたんだろう。あれからあの変態野郎は廃人になっちまって、独居房で糞尿垂れ流しの生活を送ってるらしいぜ。どんな恐怖を味わわされたんだか……」

「噂じゃ、あのアジアンのガキ、前大統領暗殺に絡んでるらしいぜ」

「マジかよ……だが、奴ならあり得る話だ。あんな普通のガキのくせして、尋常じゃない強さだったんだから」

「ああ。しかも『エリクサー』だって噂もあるらしい」

「『エリクサー』って、あの……?」

「そう。あの、さ」


 彼らの噂通り、加嶋暁(かしまあきら)は今日、出所する。

 懲役3657年の少年は、今日から日本で普通の高校生になるのだ。

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