092 スイーツ屋
正嫡従者フリック・ベンジャミン・マクミランと連絡を取り、自学室でフレディ・デビッドソンと引き合わせたのは昼休みの事だった。お互いに挨拶を行い、これまでの経緯を確認した後、俺はフリックに言った。
「まずはコルレッツの内情を知らないとどうにもならない。だから神官の子息であるデビッドソンに頼んで、戸籍の取得をお願いしようと思う」
「なるほど。それは分かった。それで私はどうすればよろしいか?」
物腰柔らかく話すフリックにフレディが質問した。
「正嫡殿下がこの件でお困りとか・・・・・」
「ああ、その通りだ。殿下は苦慮されておられる。かといってこちらから軽々に動く訳にも行かず・・・・・」
「だからこちらで調べなきゃならないな、という事なんだ」
答えるフリックの話に、俺が補足した。フレディは納得したように頷いた。
「フリック。デビッドソンに内々である事を言ってやって欲しいんだ。説得材料になるからな」
フリックは、なるほど、といった感じで首を縦に振った。
「コルレッツの件で私が情報を調べようにも殿下のお立場を考えれば、小事であろうと
「『クラス代表戦』が取り持った縁なんだよ、この話」
フレディは驚いている。まさに人の縁の妙技。俺たちデビッドソン組が戦ったスピアリット組。その中心のカインとフレディがまさかこんな形で繋がるなんて、本人からすれば思っても見なかっただろう。フリックが続けた。
「この話の証明は私の書面でどうか」
「いや、紋章と役職、サインだけでいいだろう。なぁ、フレディ」
頷くフレディ。書面ならば殿下のサイドの命令となりかねない。紋章がエンボス加工された紙へのサインのみであるなら、見た者はその意図を察する事はできまい。後はフレディが口頭で伝えるのみ。証拠にはならない。正嫡殿下に累を及ぼさない手だ。フリックも俺の意図を察したようだ。
「分かった。用意しよう。デビッドソン殿、無理を言って申し訳ないが宜しく頼む」
「いえいえ、こちらこそ期待に添えるように努力します」
頭を下げるフリックに、フレディは恐縮している。俺は「頼むぜ!」と、隣に座るフレディの肩を叩いた。大きく頷くフレディ。かくして『コルレッツの秘密を探れ!』作戦の始動は決まった。
放課後。俺はアイリとレティと一緒に「スイーツ屋」にいた。アイリが俺とレティとで
行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!
と、駄々をこね通したからである。アイリはすっかりパフェにハマったようだ。
「じゃ、私。今日はフルーツパフェのラージにします」
躊躇なくラージを選ぶレティがギョッとしている。
「だ、だ、大丈夫なの。そんなに・・・・・」
「大丈夫ですよ。レティシアも同じものにしますか?」
アイリに振られて戸惑うレティ。レティは甘味よりもワインだからな、絶対。
「パフェ。おいしいですよ!」
無邪気に微笑むアイリ。対するレティの方は引きつっているように見える。アイリに押されてタジタジなのだ。
「レティは初めて来たから、こんなのでどうだ?」
チョコレートパフェのスモールを勧めた。レティはこれなら・・・・・ と、俺の提案に乗ってきた。アイ・コンタクトで助かったと送ってきたのを見ると、本当に困っていたようである。俺はチョコクレープ二つと紅茶を注文とした。
「おいしいですねぇ」
出てきたフルーツパフェを幸せそうに頬張るアイリ。一方、注文するのにも戸惑っていたレティの方はチョコレートパフェを早々に平らげてしまっていた。
「あれ? レティ・・・・・」
「お、美味しかったわよ・・・・・」
なにか物足りなさそうなレティ。おい、さっきまでの態度と違うじゃないか。
「じゃあ、もう一つ注文したらどうだ?」
「もう食べちゃったし・・・・・」
なんなんだその言い訳。物欲しそうなその顔と言っとる事が違うだろ。ははん、と思い俺は一計を案じた。
「だったら頼んでアイリと
「そうしましょう、レティシア」
ええーっ、と言いながら満更でもない顔をするレティ。メニューとにらめっこして選んだのは苺パフェだったので、内心苦笑した。レティもやっぱり女の子だったんだなぁ。
「だったら二人で分けるんだから、ラージにすればいいよ」
俺が勧めて苺パフェのラージを注文した。
「ねぇ、レティシア。美味しいでしょ」
「ええ、美味しいわ」
いつの間にか甘味に負けていたレティ。出てきた苺パフェをアイリと分け合い、美味しそうに食べて、見事平らげてしまった。
「ねぇ、グレン」
「どうした?」
「ミカエルがね、来るの」
レティが自分の弟でリッチェル子爵家の嫡嗣となる人物の名を上げた。いつだ、と問うとシーズン終了前なのだという。
「ところでリッチェル家はどこに属しているんだ?」
「エルベール派よ。ウチの家、無駄に歴史だけはあるのよ。だから余計に面倒なの」
エルベール派。確か古参貴族を中心に集まっている貴族派の第二派閥だったな。なるほど、リッチェル家は現王朝前からの貴族系譜だったのか。こういうのが分かってくると、色々面白い。
「シーズンの終わりにエルベール公の屋敷でパーティーがあるの。そこに出席するために王都に来るの」
ミカエルの顔見世をやって、リッチェル子爵家の嫡嗣であると周知しておきたいというのがレティの意図だろう。
「ミカエル殿と是非とも会わせていただきたい」
俺はいつもとは口調を変えて言った。
「こちらこそお願い致します」
レティも俺に応じる。この為に誼を結んだ訳で、エメラルドの瞳は真剣そのものだ。
「大変なお話ですねぇ」
ちょっと間の抜けた感じのソプラノボイスでアイリが呟いた事で緊張感に包まれた
「ごめんね、アイリス」
レティが申し訳無さそうに言った。アイリは呟く。
「レティシアもグレンもやらなきゃいけないことがあって大変ですね」
まぁ、普通はそう見えるわな。
「だからアイリと、こうして話せると楽しいんだよ」
「そうそう。凄く楽になるのよ」
「えっ、そうなんですか」
そうだよ、と俺とレティは答えた。だって『癒やしの力』があるもんなアイリには。話すだけで人を癒やし、幸せにできる力だ。
「だったら良かったです」
ニコッと笑顔を振りまくアイリ。俺だけではなく、レティもこの笑顔で癒やされているのがよく分かる。ひとしきり歓談した後、俺は玄関受付に立ち寄るため、お店で二人と別れた。
いつものように玄関受付に立ち寄ると三通の手紙が来ていた。一通はザルツから、一通はワロスから、そしてもう一通はグレックナーからだ。ザルツの手紙は週二通ほど届く定期的なものだ。レティの所の出入り商人ドラフィルが、ムファスタギルドに加盟した件が書かれていた。
これが現実世界ならメール一通、メッセ一通でできるものなのだろうが、エレノ世界は手紙が全て。何をやるにも時間と手間がかかるのは仕方がない。今、電話並みに使える魔装具だが、連絡を取り合える者がエッペル親爺、若旦那ファーナス、ウィルゴット、リサの四人だけ。使えるのが商人属性のみ、というのも不便なところだ。
ワロスの手紙には『投資ギルド』の責任者へ就任するのに伴い、「信用のワロス」の経営を娘のマーチ・ワロスに譲渡する旨が書かれていた。ついては例の生徒会融資の件について来訪願いたいとの事である。前からそうなのだが、ワロス話の際には何故かエレクトーンが聞こえてくる。淫欲坊主が閃いた後に流れてくるお決まりの曲だ。あれは何なんだろう。
一方、グレックナーの手紙には屯所ができたので来訪を促すものだった。グループ名を考えるのも忘れないようにとの念押しまで書かれてあったのには苦笑したが、約束なので守らなければならない。
(どんな名前にするべきなのか・・・・・)
名前について思案しながら、伝信室でワロスとグレックナーに対し、明後日の休日初日に顔を出すとの手紙を
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