大体一時間のやつ

綿貫

メリークリスマス・ガンファイターズ

 ZAPZAPZAP!とでも表現出来そうな光線銃の青色がバイオテックトナカイを貫いた。普通のトナカイより遥かに肥大した、赤と緑に彩られた角を持つトナカイがどさりと倒れる。

「ホオー……やるじゃねえか」

 そう言って拍手を送ってやれば、ゴーグル越しにくりっとした瞳がこちらを見た。

「当たり前です!わたしはあなたの背中だけをずっと見てきましたから」

「よせやい」

 やはり真っ直ぐな言葉というのは照れ臭い。にやける口元を見られないように、ネックウォーマーで咄嗟に口元を隠した。

「……それより、だ」

「はい、何でしょうか、ミスター・マトバ!」

「このままだと朝までかかるぞ」

 おれの言葉に、ゴーグルをつけた少女——カナギは気不味そうに俯いた。

「だってわたし、光線銃での狙撃を始めたのつい最近なんですよ。あなたのようにできるわけがありません」

「まあそう言うな。お前さんだって……」

 カナギをフォローしようとした瞬間だった。ガランと古い鐘のような音が聞こえた。カナギも気がついたようで、光線銃を構えた。

「『ギフトトラッパー』だ。援護しろ。絶対にやつを逃すな」

「はい!」

 カナギの返事を聞きながら、茂みから足音を立てないように抜け出して、捜索を図る。目視で確認できる距離に足跡はない。それでも古い鐘のような音がどこからか聞こえてくる。

「どこだ、クソ害獣……」

 呟いたのとほぼ同じタイミングで、冷たい風に乗ってパーティークラッカーの紙吹雪が頬に張り付いてきた。巨大化したバイオテックトナカイが体から落とすものだ。紙吹雪は乾いている。『ギフトトラッパー』が近くにいる証拠だ。ぎゅっ、と雪を踏みしめる音がした。

「いた!」

 ゆっくりと木の向こうから姿を現した巨体に、おれは迷うことなく鉛玉を叩き込んでやった。醜悪な鳴き声がして、ゆっくりとそのバイオテックトナカイは月明かりの下に姿を晒した。目を引くのは大きな角に飾られたリース、古びたベル、大きなプレゼント!

「AAAAGH!!」

 猛り狂ったような勢いでバイオテックトナカイはこちらに突進してくる。カナギが援護射撃を行なっているが、それをものともせず突っ込んできている!

「ああクソ!」

 おれは銃弾を三発、やつの頭部めがけて撃ち込んだ。しかし、大きすぎるプレゼントのせいか、ろくにダメージは入っていない!

「カナギ!プレゼントを狙え!」

 無線機に指示を飛ばし、即座にリロードして構える。直後、青色の光がプレゼントを弾け飛ばした。ZAPZAPZAP!

「よくやった!」

 おれは露わになった『ギフトトラッパー』の眉間に、銃弾を叩き込む。鋭い牙の生えた口から悲鳴が漏れた。その開いた口にも弾をお見舞いしてやる。

「A……GAAAH……」

 しゃがれ声のような鳴き声と共に、『ギフトトラッパー』は膝をつき、動かなくなった。古びたベルが雪の上に落ち、背中からはパーティークラッカーの紙吹雪がさらさらと落ちる。

「終わった。合流してくれ」

 カナギに指示を飛ばして、おれは拳銃にまた弾を込めた。


 バイオテックトナカイは哀れな生き物だ。人間の幻想のために作り出された、『クリスマス全部乗せ』のような生物であるこいつは、役目が終わったら消えなければならない。しかし、人の手で作り出した生き物でも、育てたら情が湧くというもの。通常ならあり得ない大きさに成長したバイオテックトナカイは、やがて人間の手に余るようになり、森で繁殖するようになった。そうして、冬になると森から出てきて人間を襲う。自分を虚仮にした人間に裁きを与えるためか、果たして……。

「お疲れさまです、ミスター・マトバ!」

 カナギの元気な声で、おれは現実に引き戻された。

「おう、お疲れ。よくやってくれた」

 そう言って肩を叩くと、カナギは「当然のことをしたまでです」と僅かに俯いて言った。

「そうかい。じゃあ一人でこの辺のバイオテックトナカイを始末してくれ。おれは寝たい」

「意地悪言わないでください〜!」

 バンバンと肩を叩いてくるカナギをよそに、報告書を開いてリストを確認する。脅威とされていた『ギフトトラッパー』以外の巨大種は確認されていないようだ。おれはぐるぐると肩を回して、後ろでしょげている様子のカナギに声をかけた。

「まあ、さっさと済まそうや。熱いコーヒーが飲みてえ」

「……はい!帰ったら、美味しいコーヒーをご馳走いたします!」

 体の芯まで凍るような寒い森の中を、雪を蹴散らしながらおれたちは進む。時刻は零時二十三分。聖夜を祝福するかのように、バイオテックトナカイの悪趣味な角のシルエットが雪の上に映った。

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