エースは狼男、キャッチャーは吸血鬼、4番はフランケンシュタイン、怪物だらけの野球部奮闘記

鷹角彰来(たかずみ・しょうき)

第1話 日本一ピッチャーの狼男

 千葉県の東京ドリームランドの近くに立地する私立希望きぼう学園は、野球部強化のために、全世界から野球選手を集めた。



 今日は、セレクションで合格した9人の怪物が、グラウンドにやって来る。



 2・3年生は楽しみと不安が混じった表情で、新入生の登場を待った。チームが強くなる代わりに、レギュラーの座が危うくなるからだ。



 彼らはストレッチをしながら、雑談をかわす。



「どんな選手が来るかなー」


「ロボットみたいな奴が来たりして」


「おいっ! 監督が来られたぞ、整列!」



 弁当箱のように角ばった顔と海苔のような太眉が目立つ小野沢おのざわみやび監督が、新入部員を大名行列のように引き連れてやって来た。



 彼は去年の秋に就任した監督で、過去に3つの高校を全国優勝に導いている。厳しい特訓を課し、40人いた部員は20人に半減してしまった。



「フゥー。では、1人ずつ自己紹介をしてくれ」



 監督の横には1年生がズラッと一列に並ぶ。その列の中から、茶髪のウルフカットの少年が1人、列の前に出てきた。



桃野ももの栄治えいじです! 中学時代、ピッチャーをやっとりました!」


「桃野だって? まさか、あの……」


「中学日本一ピッチャー?」


「めっちゃ吠えるオオカミか?」



 部員達は桃野もものの爽やかな顔を見て、ヒソヒソ声でしゃべり出す。



「はいっ! 天王寺てんのうじズーファイターズで、全日本を制しました!」



 桃野もものはそう言うと、全身をブルッと震わせる。体中に金色の獣毛、胸元は白いふわふわした毛が生える。吊り目がさらにつり上がり、鼻と口がぐいと伸びる。



「ウグググ、アガガ……」



 変身に慣れてるとは言え、顔が変化するとよだれを垂らして苦悶くもんの表情を浮かべる。手が大きくなり、肉球とかぎ爪が現れる。腕や腹に筋肉がつき、プロボクサーのように引き締まった体となった。



 その姿は、まさに中学ナンバーワン狼男ピッチャーだ。



「うおー! 全国ナンバーワンピッチャーかよー」


「甲子園見えてキター!!」



 部員達は桃野もものの入部に湧き立つ。だが、桃野もものは咳払いして、「あー、すみません。実は俺、肩壊してもて、一塁専(注1)になっちゃったんですよ……」と、申し訳なさそうに言った。



 途端に、部員達のムードは熱帯から寒帯に変わる。



「だよなー。じゃなきゃ、こんな学校に来ねぇよ」


「そう上手くいかんよな」


「でも、安心して下さい! 双子の弟連れて来たんで」



 桃野もものは舌を出して、オオカミ流の笑顔を作る。彼は後ろの弟の手を引っ張り、列の前に出させた。



「ほら、自己紹介やって!」


桃野ももの鉄平てっぺいです。中学時代はバッピー(注2)でした」



 自信満々で笑顔あふれる兄と違い、弟は伏し目がちで活気のない声だった。



(続く)



注1 一塁専……守備がかなり下手で、もしくは肩が弱くて、一塁手ファーストしか守れない選手。


注2 バッピー……打撃バッティング投手ピッチャーの略称。打撃練習する選手に対してボールを投げる投手のことを差す。

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