非常で非情な情報恋愛戦争

本条真司

第1話

失敗しなければ幸せは途切れない

頭でわかっていてできることではなく、人は失敗を重ねて生きている

それこそが人間の行動心理。のはず



「何言ってんだ唯利ゆいり


「…また言葉に出てた?」



冬風夜斗ふゆかぜよるとが声をかけたのは、窓の外を見ながら何かを呟くクラスメイトだ

名を桜嶺さくらみね唯利という



「出てはいたが聞き取れてはいないな」


「そう。ならセーフ」


「アウトだよ。音になる前に止めて頭ん中で処理しろ。無理ならSNSで言うことだ」


「そうする。あとで」


「あとでかい…」


「今は携帯使えないし」


「真面目だなおい…」



夜斗は机の中の携帯を隠すように奥にやった

先程まで夜斗はSNSへの投稿を随時行っていたのだ



(俺が病み垢持ってるとは言えんな)



病み垢とは、簡潔に言うのなら思いを吐き出す場所の形の一つだ

厳密に言うと、リアルで話せないことを吐き出すための最終手段

大人はアテにならない。すぐに大事にするため、後々面倒なことになるだけだ



(と思ってはいるが、俺だけじゃできないこともあるしな。ってときには少し気晴らしに散歩したりとかエトセトラ)


「どうしたの?私の顔になにかついてる?」


「幸せそうなニヤケ顔がな」


「え、嘘…顔に出てた?」


「嘘だよ。幸せなんだな」


「現状は。彼氏いない歴=年齢だけど…何なら告白されたこともないけど…」


「やめろよ恋愛だけが幸せみたいに言うの」



唯利に彼氏がいたことはない

そんな校則を破ってでも猫耳パーカーである彼女が、なぜモテないのかなど夜斗の目には明白だ



(関わるなってオーラがすごいもんな。けどなんか、どちらかというと広く浅い関係より狭く深い関係を望んでる感覚だ。おそらくこれは、にかけてるんだろうな)



夜斗の見立ては正しく、唯利はこの自分を見てくれる人が欲しくて近寄りがたい雰囲気を無理やり作っている

それがわかっているからこそ、夜斗は何も言わない。というより言えないのだ



(人の心の闇は深い。俺が一言で片付けるべきではないな)



フッ、と笑って夜斗は授業に戻った



そう、授業中にこんな話をしていたのだ。しかも担任教師の授業

夜斗はこのあとの展開を予測し、ため息をついた




担任にど叱られた夜斗。唯利が怒られない理不尽さを胸の奥に秘め、下校する

校門前で待っていたのはその唯利だ



「おかえり。遅かったね」


「どこかの誰かのせいで説教食らったからな」


「そう。お疲れ様」


「オメーだよ」



夜斗は打っても響かない唯利にため息をついて歩き出した

そんな夜斗についてくる唯利は、どこか嬉しそうだ



「どうした、唯利」


「別に。夜斗は私と仲良くしてくれるね」


「成り行きでな。勘違いするなよ、お前が可哀想だとかそういうことじゃない。ただ俺はお前が望むことをしてやろうと思ったに過ぎない」


「…つんでれ?」


「定型的な返しか。そんなんじゃねぇさ」



夜斗は唯利を自宅に送り届け、またあるき出した

そして自宅に向かう



「紗奈」


「お兄様。お疲れ様です」



夜斗が到着したのは、双子の妹・紗奈が通う学校だ

紗奈は夜斗を見つけると、学友たちに断りを入れて駆け寄った



「友達はいいのか?」


「お兄様がよろしければ、ご一緒させていただきたいと…」


「紗奈の自由にするといい。というか俺が迎えに来るのやめたほうがいいか?」


「私はまだ不安です」


「そうですかい…」



夜斗は学友の元へ走っていく紗奈を眺めながら、歩いてくる男子生徒に目を向けた



霊斗れいと


「よう。またお迎えか?」


「ああ。お前は今からか」


「おう。つってもお前みたいに妹を迎えに行くわけじゃないけどな」


天音あまねのほうか」


「ああ」



寄ってきたのは親友の緋月霊斗。そして話に上がった天音というのは、夜斗と霊斗の幼馴染だ

といっても天音は霊斗の恋人でもあるため、日頃天音に聞かされるのは惚気話に他ならない



「おい天音、隠れてないでいつもみたいに霊斗に抱きついたらどうだ」


「それは…その、霊くんの後輩もいるし…」


「知るか」



天音はずっと夜斗の後ろからついてきていた

というのも天音は重度の方向音痴で、夜斗か霊斗の案内なしに目的地に辿り着いたことはない

そのため紗奈の学校…つまりは霊斗の学校にくるのも一苦労なのだ



「さっさと帰るぞ、天音」



霊斗はなんのためらいもなく天音の手を取り、夜斗を待つ

大抵の場合、夜斗と霊斗、そして天音と紗奈は纏まって帰る

それは夜斗と霊斗の情報共有と、天音が紗奈に惚気けたいというのと、紗奈が夜斗と帰りたいというのと、霊斗が天音と帰りたいのが重なった結果だ



「今日は他がいるぞ」



言外に「いいのか?」という意味を含ませて、夜斗は霊斗に言う

霊斗は何食わぬ顔で頷くが、天音はそうもいかないようだ

夜斗に向けて全力のハンドサインを送っているが、夜斗はそれを無視した



「紗奈ちゃんのお兄さん、こんにちは」


「ああこんにちは」



この下りを5回ほど繰り返し、合計9人で帰ることになった

天音はいつものように惚気ようとしたが心の準備がうまくいかず、霊斗の影に隠れている



「霊斗」


「おう」


「まずこっちの生徒会からの情報なんだが」


「えこの状況で?お前めっちゃ言い寄られてるだろうが」


「とりあえず仕事が先。こっちの地区で不審者情報がある。伝わってるか?」


「えぇ…。伝わってないな、一切」


「不審者は30代前半男性。服装はコートのみで、見せることを目的としている。俺の学校は比較的女子が少ないからあれだけど、お前の学校はそうもいかねぇだろ」


「女子多いからな。こっちの生徒会からは、今度の文化祭は運営を共同でやりたいという提案があって、それを打診してほしいって言われた」


「ダルい、却下」


「伝えとく」



情報共有が終わり、紗奈は夜斗から離れなくなった

そんな2人の写真を撮りまくる紗奈のクラスメイト

夜斗は良い気がしなかった

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