天険・野津田の登頂に挑んだとある人物の書いた、登山ガイドあるいは観光案内的な手記。
というのは明らかに大袈裟なのですけれど、でも要するにそういうお話です。ある種のコメディであり、またパスティーシュとも言えるかもしれません。
内容が内容、加えて約3,000文字というコンパクトさもあって、なかなかに説明の難しいお話です。というのも、普通に読んでしまった方が早いうえに、内容を伝えようとすることそれ自体が野暮になってしまう面がある。
作中に登場するのは、いずれも実在の地名であり実在の建造物、つまり単にスタジアムまで徒歩で向かうだけのお話、なのですけれど。しかしそれがこのような形で書かれてしまう。つまりは立地が特徴的であるがゆえに成立する、ある種の壮大なジョークとして楽しみました。
明らかにおかしなあれやこれやを、でも終始真面目な語り口で描き切ってみせる、シュールで個性的な小品でした。