ものぐさ王子と悪役令嬢
はね子
プロローグ
それは両親が旅行に出かけた昼下がりの記憶だ。
興味があったわけではなかったが、なんとなく居間のテレビを占拠して乙女ゲームに勤しむ妹に聞いてみたことがあった。
「男を落とすゲームの何が楽しいんだ?」と。
妹は鼻で笑いながら答えた。
「男を落とすのが楽しいわけじゃない。男が主人公に落ちていく様子を見るのか楽しいのよ」と。
正直何が違うのかが分からなくて妹に問いただすと、呆れながらも長々と説明を加えた。
その説明も結局要領を得なかったのだが、1つだけ分かったことがある。
妹は主人公に自分を投影して楽しんでいるのではなかった。
妹自身はあくまで傍観者。物語を見守り、主人公の行動に一喜一憂する。
そうやって乙女ゲームなるものを楽しんでいる。
「そんな楽しみ方でいいのか?」と疑問に思ったが、妹が自分の金で買ったゲームにケチをつけるのも良くない。楽しみ方は人それぞれだ。
それに妹にはこだわりがあった。
「乙女ゲームの主人公は純愛しか認めない。攻略対象が何人いようと私が攻略するのは主人公にぴったりの相手だと思ったただ1人だけよ」
よって妹はかなりの数の乙女ゲームを所有していたが、毎回毎回同じキャラを攻略していた。飽きもせずに同じ男の恋愛ルートを延々と繰り返していた。今ハマっているのは確かファンタジー学園ものだったっけ。
ちなみに俺はそんな妹に対して禁句を言ったことがある。
「他のキャラもいるんだからそっちのルートもやれよ。ゲームとして完全クリアしないなんてもったいないだろ」と。
当然烈火の如く怒り出した。
「お兄ちゃんは何もわかってない!! メリアにはルートヴィン!! これは確定事項なの!!
メリアがルートヴィン以外に色目使ってる姿なんて見れるわけないでしょ!! だいたいルートヴィン以外の攻略対象のルートってそれぞれの婚約者たちを出し抜いて恋愛するのよ! とんだ売女じゃない!! メリアはそんな女の子じゃないわ!!」
いや知らねーよ、誰だよメリアとルートヴィン。
と、思ったが妹に反論するのは無謀だ。
人のこだわりっていうのは中々に根が深い。
妹にとってはそれだけ重要なことなんだろう。
「そうか、悪かった。それはそうとしていい加減テレビを見せてくれないか」
「だめ! 今からが佳境なの!!」
お前散々そのゲームやってるから全部内容知ってるだろ。
俺のは録画機能ないテレビのせいで、今このタイミングでしか見れない番組だぞ。
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
まぁ、妹の機嫌が悪くなるよりはいいか。怒らせると面倒だし。
「ゲーム終わったら声かけてくれ」
「分かった!!
うへへ〜やっぱルトメリ最高っすわぁ〜
あ〜、生まれ変わったら2人を見守るモブになりたい」
意気揚々とゲームに戻った妹はニヤニヤと顔を緩めながら気持ち悪いことを呟いている。
生まれ変わるなら主人公達と積極的に関われる立場の方が仲良くなれるからいいんじゃないか?
その言葉もあと少しのところで口に出すところだったが気力で抑え込む。
面倒ごとには首を突っ込まないのが俺の主義だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます