第1章 魔王軍追放編
<1> 魔王、令嬢になる
第1話 魔王、死す
「ぐえええええええええええぇぇぇぇぇええええぇぇっっ!!!!」
ヒキガエルでももっとマシだったであろう断末魔を挙げたのは、勇者の聖剣に心臓を貫かれた魔王、即ち我だった。死ぬほど痛い。いや、マジで死んだ。
身体中に胃潰瘍でもできたのかってくらい痛い。しまいにゃ、頭の先から足の先までこんがりと焼き上げられるかの如く、超絶にえげつない熱量に包まれた。
我の身体どうなってんの。見てみたら、腕とか足とか炭みたいにボロボロのボロボロになって崩れていった。実際痛いけど、見たらもっと痛くなってきた。
ああこれもうあかんわ。確信する。我、死んだ。
目の前が文字通りに真っ白になった。多分、聖剣の光で浄化的な何かをされたのだろう――と考えてる間に、意識が遠のいていく――――……
※ ※ ※ ※ ※
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「――う様――魔――様……、きてください。魔王様」
「ぶはっ!?」
息を吹き返した我の視界に映ったのは、ガイコツ野郎――じゃなかった、スケルトンのセバスチャンだった。長年、付き添ってもらってる見飽きた顔だ。
骨だけのスカスカな奴だが、身なりだけは紳士並みにしっかりしている。
「我、生きておるのか?」
「いえ、死にました。死んでましたとも」
そんな身も蓋もない。強烈な事実を叩きつけなくてもいいだろうに。正直、我、傷ついちゃうぞ。傷ついたどころか心臓を串刺しにされたんだけど。
辺りを見回してみると、どうやら我が城の地下のようだった。そして我は棺桶の中で眠っていたようだ。ホコリの具合からして、結構な時間経過を察せる。
「魔王様の命は人々の悪意を糧にしているのですから、そりゃあ死んでも生き返るに決まっているじゃないですか」
何を当たり前のことを、とでも言いたげな呆れ顔で言われた。
いや、コイツの顔は骨しかないから、ぶっちゃけ表情筋もないから呆れ顔なんて分からんのだけど、長い付き合いのある我にはハッキリとそう分かった。
確かに聞いてみればそういう感じだった。
なんかこう簡単に力を得る方法はないかと模索した結果、何千年か前に人間どもの憎悪や悪意的なものを命に変換できる術を開発したんだった。
実際に死んだのは初めてのことだったし、そんな術を作ったこともすっかり忘れてたわ。
「まあよい。我は蘇ったのだな。ならば、憎き勇者どもに復讐せねばな」
マジで痛かったぞ、あの聖剣。だって全身が燃えたんだもん。ガチで灰になったんだぞ。サラサラのカスッカスにされたんだぞ。
「それは無理ですね」
「なんで即答? 我が魔王軍、全滅しちゃったの?」
「一応ある程度の生き残りはいますけど、魔王様、今ようやく蘇ったばかりで力までは取り戻せてないんですよ。自分で分からないんですか?」
このガイコツ野郎、口が悪すぎないか? 前々からそんな感じではあったが。
――ふむ、確かになんだか力が入らない気がする。
魔力を感じられないというか何というか寝起きみたいなフワフワのもっと数百倍くらいヤバい感じで、なんか調子がよくない。自分でこんな感じなのだから他から見てもよわよわのザコザコに見えるのだろう。
「当然知っていると思いますが、勇者の聖剣は魔王の力を丸ごとズバっと消失させる力があるんですよ。自然に回復するには大体数百年くらい掛かるでしょうね」
「マジでか」
「マジです」
また即答しやがってこのガイコツ野郎め。
「――ということで、クソザコよわよわ低レベル魔王様には威厳もへったくれもないので、本日限りで解任です。今までお疲れ様でした。はい」
「待て待て待て待て待て待て待てぇぇいい! ということでじゃねぇ! 展開が急すぎやしないか? 我、そんな? そんな扱い? 我泣いちゃうぞ?」
「といいましても、正直な話、アナタが倒されて三年くらい経っているんですよ。もうね、魔王軍もずっっっっっっと最悪の状況でしてね。観光地感覚で冒険者たちが攻め込んできてヤベェのですよ。勇者に倒された魔王城って世界中に拡散されちゃってもうね、最悪の最低で、最の低なんです。幹部の皆様が一所懸命やってるっていうのに、アナタすやすや寝てるばかりだし、早いところ追い出したいなぁ、ってぶっちゃけ思ってました」
うわぁ……、恨み辛みが束になって口先から放たれてくる。まるで呪詛のよう。
え? 何、三年? ずっとそういうことを思い続けながら今日まで過ごしてきたの? 我、悪者? いや、まあ我は悪者で間違いないんだけどさ。
そんなに言わなくてもいいじゃん。本当に泣きたい。むしろもう涙出てきた。
「やっと目を覚ましてくれたので悲願の戴冠式もチャッチャとできます。即戦力欲しいってときにクソザコよわよわ低レベルの経験値にもならなくクズカス自称魔王モドキなんて要りませんので、とっとと出て行ってください」
「うわああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁん!!!! さっきより罵詈雑言が付け足されてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
※ ※ ※
――ってわけで、我、魔王軍から追放されてしまいましたとさ。ちくしょう。
一応いくらかの金品を退職金代わりに譲ってもらうことはできたが、武器になりそうな魔具の類いすら持たされなかったのは正直つらたんです。
炎を弾くマントとか氷を放つ剣とか、いいものは全部使うから渡せないんだと。あれって元々我の所持品だったんだけどなー。
じゃあ我はどうやって自分の身を守れってんだよ。
また死んじゃうぞ。まあ、また生き返るんだろうけどさ。
そういうときこそさ、守ってくれるもんじゃないの?
我、魔王だったよね? 数百年くらい保護してくれたっていいじゃないの。
フンだ! アイツらなんて魔王軍残党狩りの冒険者どもに討伐されちまえっ!
もう我、知らん! どーせザコザコのよわよわのヘボヘボだし。
力が戻るまで隠れ住むしかないのか……くぅ。
だが。だが、しかしだ。数百年経ったら勇者の奴らって死んでんじゃねーの?
あっちは人間だから百年だって生きてないんじゃ……。
我の復讐心は何処に向けたらいいんだ。
仮に勇者どもに今後子孫が現れたとして、そっちに矛先向けられるか? 何世代後になるんだよ。そんなの全くの赤の他人じゃないか。
いいや、いかんいかん。復讐するなら今しかないではないか。なんだったらうっかりうたた寝した隙に勇者が死んでるかもしれないぞ。
力が戻ってくるまでなんて待っていられん。勇者どもはともかく、我はそう簡単には死なぬのだ。
だったら、当たって砕ける勢いで何としても勇者が死ぬ前に殺さねば。そうだ、勇者が死ぬ前に殺すしかないのだ。
何もおかしいことは言っていないから二度言った。
やられた我が言うのも何だが、人間ってのは脆い生き物だ。毒を飲ませるなり、大怪我を負わせるなりすればアッサリと死ぬはず。
あのとき負けたのは集団で一斉に襲撃されたからだ。なんで我一人に対して八人くらいで攻撃してくるんだ。それって卑怯じゃないのか。
いやまあ、純粋な数での話をしたら我の軍を退けているからそうでもないのか?
ともかく、だ。
勇者一人だけなら何とかなるはずだ。
今や我の不在となった世の中は平和ボケしている。きっと勇者も退屈な日々を送っているに違いない。
だとすれば寝首をかくくらいなら今の我にでもできるだろう。
そうと決まれば悪は急げだ。
人里を降りて、勇者を探し出し、そして復讐を果たすのだ。
ふははははははははははっ!!!!
勇者よ、首を洗って待っているがよい!
ここから我の復讐劇が始まるのだ!
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